音楽家として約20年のキャリアを持ち、アコースティック、エレクトリック、そしてシンセ・サウンドと、多彩なギター・プレイを奏でるギタリスト・高野寛。その幅広い音楽的素養と確かなテクニックによる堅実かつクリエイティブなプレイは、国籍、音楽ジャンルを問わず高い評価を受けている。近年の活動を振り返るだけでも、宮沢和史(THE BOOM)らと結成したバンド"GANGA ZUMBA"、今年5月に行われたHuman Audio Spongeライブでのサポート、そして昨年よりスタートさせた自身のソロ・プロジェクト"HAAS"でのCDリリースなど、そのフィールドは現在進行形で拡大中だ。そんな高野寛の音楽性、そしてギター・サウンドへのこだわりを紐解くと同時に、近年愛用しているローランドのギター・シンセサイザーGR-20の高野寛流活用法について、たっぷりと語ってもらった。
あと3年遅く生まれていたら、ギターではなくシンセを買っていたかもしれません
─ 高野寛さんが最初にローランド/ボス製品と出会ったのは、いつ頃ですか?

▲ボス/CS-2
高野氏が高校時代に最初に購入したエフェクター。当時、スラップ・ベースをプレイしていたことから、このコンプレッション・サスティナーをセレクトしたという。自らの手で、ブルーの塗装を剥ぎ取り、ツマミも変えたというレアな一品。
高野寛(以下、T):高校1、2年の頃ですね。僕が最初に買ったエフェクターが、ボスのコンプレッション・サスティナーCS-2だったんです。これは、今でも使っていますよ。ギターそのものは中1から始めたんですけれど、ちょうど中3の頃にYMOが流行り出して。それでシンセが欲しくなったんですが、その頃、ローランドのモノフォニック・シンセSH-09が、確か10万円近くしたんですね。高校生が10万円も出して単音じゃ何もできないと思いまして(笑)、結局、その時にアコースティック・ギターとベース、それとCS-2を買って、バンドでベースを弾き始めたんです。僕は当時から多重録音には興味があったので、シンセはちょっと後回しにして。それでもシンセは大好きだったので、頻繁に楽器店に入り浸ってモジュラー・シンセのSYSTEM-100Mとか、よく触っていました。
─ YMOの影響を受けた高野さんが、シンセではなくギターに進んだのは、そういった経緯があったのですね。
T:だから、あと3年くらい遅く生まれていたら、もうその頃なら安いポリフォニック・シンセが発売されていたでしょうから、ギターではなくシンセを買っていたかもしれませんね。ギリギリで、古い世代の最後の方法論で、音楽を始めた感じです(笑)。そういった感じで、高校時代は、YMOとビートルズが自分の中で同じくらいのブームだったんです。でも、YMOは手の届かないものだと思っていました。とにかく、YMOは演奏が上手だし。YMOって、今思えばライブではそれほどシーケンスを使ってなくて、基本はライブ・バンドでしたからね。だから、憧れでコピーをしてみたりしたこともありましたけど、やっぱり真似のできない、憧れの対象でした。それよりは、ビートルズとかトッド・ラングレンのバンド・サウンドの方が、手が届きやすいかな、と感じたんですね。それで、自然とバンドの方向に進んでいった感じですね。
─ では、その高校時代に、自分はギタリストとしてやっていこうと。

T:いえいえ、プレイヤーになれるなんて、考えてもいませんでしたよ。実はその頃は、本気でエンジニアになろうと思っていたんです。それで、雑誌の自作記事などを読んで、シンセ・ドラムなんかを作ったりしていました。そういった機械に対する興味は、たぶん子供の頃のプラモデルや工作の延長上にあって、本当にいろいろやっていましたよ。中学生の頃も、クラシックギターに鉄弦を張って、コイルを巻いてピックアップを作ってみたりしていたし、宅録も、MTRではなくラジカセでピンポン録音していたんですが、パッシブ・タイプのミキサーを自作したりして。エレキ・ギターもよく改造していました。ですから、当時の僕の中での"モノ作り"は、ハードウェアだったんです。それが、次第に"曲作り"の方に興味が移っていって、ハードウェアをいじるよりも音楽を作るほうが面白いと思うようになってきたんです。でも、そういったミュージシャンとエンジニアという2つのモードは、今でも自分の中にあって、その両方を往復している感じですね。今でも自宅でレコーディングをしている時などは、やっぱりエンジニア・モードに入り過ぎてしまうこともありますし。
─ それでは、実際にギタリストとしてやっていくことを実感したのはいつ頃ですか?
T:86年に、(高橋)幸宏さんとムーンライダーズが審査員をされたオーディションに受かった後ですね。その時、初めて「ああ、ミュージシャンになれるんだ」と思ったくらいで。オーディションに応募した時も、そんな気は全然なくて、自主制作でアルバムを1枚作れたら嬉しいな、くらいの夢しかありませんでした。
─ そこからキャリアをスタートした高野さんにとって、先日のHAS(Human Audio Sponge)のライブにサポート・メンバーとして参加された時は、まさに感無量だったのではありませんか?
T:あれは感慨深かったですよね。
─ そのHASのステージでも披露していた非常にエレクトリックなギター・サウンドの一方で、ご自身の作品ではよりアコースティックな方向に進んでいっているように思うのですが、そのサウンドの振れ幅は、意識してのことなのですか?

▲HAAS『Music for Breakfast』(333DISCS/333D31)
高野寛のソロ・ユニット「HAAS」の第一弾。朝食をテーマに、HAASとお菓子研究家いがらしろみがインスト曲&レシピ集でコラボレーションした1枚。2006年11月リリース。
http://bridge.shop-pro.jp/?pid=2008761
T:聴き手を少々混乱させてしまっているかもしれないけど、これまで僕は、本当にいろんな音楽に影響を受けてきたので、守備範囲が凄く広くなっているんですよ。例えば、細野(晴臣)さんの経歴だって、ひと言ではとても言い表せないじゃないですか。だって、YMOとはっぴいえんどの両方をやっている人なんて、やっぱり変ですよ(笑)。そういう人の影響を多大に受けてきましたからね。そういうこともあって、最近では、シンガー・ソング・ライターとしての"高野寛"とは別に"HAAS"という名義でも活動を始めたんです。このHAASという名前は今から10年くらい前、HASよりも昔に考えた名前でなんですが、この名義でインスト作品などをいろいろと発表していこうと思っているんです。それで昨年、HAASとして最初のCDをリリースしたんです。これは、ノー・シーケンスで、全編アコースティックで演奏しています。
─ そのHAASで、今後エレクトリックなサウンドが登場する可能性はありますか?

▲テイラー/T-5
GR-20使用時のメインギター。マグネット・ピックアップとピエゾ・ピックアップの両方を搭載しており、エレクトリック・ギターとアコースティック・ギターの両方のサウンドを奏でられる。これにGK-3を搭載し、さらにシンセ・サウンドもコントロールできるという1台3役の使い方だ。
T:ちょうど去年からローランドのギター・シンセサイザーGR-20を使っていて、それ用のGKピックアップ(GK-3)をテイラーのエレアコに装着しているんです。このギターはアコギの音も出せるので、これとギター・シンセをミックスしてみるのも面白いかな、というようなことは考えています。
GR-20のブルース・ハープの音色が持つ、押し付けがましくない歪みが好きですね
─ GR-20を使い始めたきっかけは?

▲ローランド/GR-20
高野氏所有のGR-20。お気に入りのブルース・ハープのサウンドは、ユーザー・パッチ95番に保存されている。ホールド・ペダルの右横には、プリセット・ナンバーをメモした跡も見受けられる。このほか、宮沢和史の中南米ツアー(2005年)ではボスのマルチ・エフェクターME-50を、そして現在活動中のGANGA ZUMBAではRC-20XLをライブ時に利用している。また、自宅での曲作りや自身のサイトへサウンド・データをアップする際に、エディロールのWAV/MP3レコーダーR-1を愛用しているのだそうだ。
T:去年の幸宏さんのツアーで初めて使ったんですが、そのツアーで一緒だった高田漣くんが、先にGR-20を持っていたんですよ。漣くんは、リズム・マシンが内蔵されている台湾製の凄く変わったギターにGKピックアップを取り付けていて、それでGR-20を鳴らしていたんです。確か、彼のソロ・アルバムでも使っていたんじゃないかな? それで、久しぶりにギター・シンセを使っている人を見たんです。
─ ギター・シンセそのものには、興味はお持ちだったんですか?
T:僕は、エイドリアン・ブリューやパット・メセニーが大好きだったから、ギター・シンセそのものには興味がありました。ただ、僕の中のギター・シンセに対する知識が20年くらい前の状態でストップしていたんです。当時は反応も遅くて、現実的には使いづらいものでしたから……。そういうこともあって、漣くんに「どう?」って聞いたら、全然問題ないと言われて、早速楽器店で試してみたんです。そうしたら、発音の遅れも感じないし、びっくりするほどよくて、早速、幸宏さんのツアーで使うことにしたんです。
─ その時は、どのようなテイストの音色をよく使いましたか?
T:ブルース・ハープの音はよく使っていましたね。この音は、パッと聴くと普通に歪んだギター・ソロのようなサウンドなんですが、押し付けがましくない独特のテイストが好きでした。他には、音程感のないノイズっぽいパッド・サウンドを使いながら、スライド奏法で効果音的な面白い音を出したり。ジャズ・スキャットは、ギャグでデモンストレーションのように使ってましたね。これで曲を作ろうって言って(笑)。また、TB-303のようなシンセ・ベースの音や、GR-300のアナログ・シンセ的なサウンドも遊びでよく使いました。僕はグライドが好きでね、演奏中にこのグライドのスイッチをよく踏むんです。僕の場合、GR-20を買って最初にやったのが、プリセット・パッチを全部聴いてみて、好きな音をチェックして、それをユーザー・パッチにまとめるという作業でした。そこから、エフェクトの量とかを好みでエディットしていきました。だから、元のプリセットがどこに入っていたのか、あまり覚えてないんです。
─ そのステージでは、確かステージ上にギター・アンプを置かずに、すべてのサウンドをPAから鳴らしていたと思いますが、どのようなシステムだったのですか?
T:ギターのダイレクト・アウトを別に用意したボリューム・ペダルに接続してアンプ・シミュレーター経由でPAに送っていました。ですから、GR-20のペダルを踏むとシンセの音が出て、もう1つのペダルを踏むとギターの生音が出るというシステムです。僕は、両方をミックスせずに、ギター・シンセの時はGR-20の音だけ、生音の時は生音だけで使ったんです。それで、聴いているみんなはギター・シンセを使っているとは思ってなかったみたいで、ステージが終わると「どんなエフェクター使ってるの?」ってよく聞かれましたよ(笑)。

