弾き語りでGR-20を使うなんて面白いプレイは、早くやった者勝ちですよ(笑)
─ 実際にGR-20をいろんなシチュエーションで使われてみて、GR-20の特徴や効果的な使い方については、どのような印象をお持ちですか?
T:やっぱり、デジタル・シンセ系のサウンドが多かったり、打ち込みのフレーズがあるような楽曲では、ギター・シンセのサウンドは使いやすいでしょうね。その一方で、キーボードがいないようなシンプルなロック・バンドであれば、例えば、効果音やパッド系のサウンドをギターで鳴らすという使い方は実用的でしょう。ストレートに、ギター・ソロやリード・ギターにシンセ・サウンドをプラスして音を太くするなど、ギターの色づけ的にGR-20を使うのも面白いと思います。特に、このテイラーのギターのように、一見シンセ・サウンドが出てくるように見えない楽器からそういった音が出てきたほうが、ライブではインパクトがありますよね。そういう意味では、うまく弾き語りで使えたら効果的かもしれません。例えば、アコースティク・ギターで演奏して、盛り上げたい時にペダル操作でシンセ・パッドの音を混ぜるとか。よく、ピアニストがエレピの音にストリングスを混ぜるといったことをやりますが、それと同じ発想のギター版ですね。
─ 確かにアコギとシンセ・パッドをミックスして弾き語りをするなんて、ちょっとあり得ないシチュエーションですね。
T:うん。誰もやってないからね、早い者勝ちですよ(笑)。
─ その逆の発想として、シンセ・サウンドでありながら鍵盤ではできない、ギターだからこそできるという表現方法はありますか?
T:先ほど、ジャズ・スキャットの音色を使って弾いたサンバのようなフレーズ・パターンやボイシングの感じは、これはやっぱりギターじゃないとできないものですよね。ギターとキーボードのボイシングの違いは大きいと思います。チョーキングやビブラートなど、左手のニュアンスをいかしたプレイもギターならではの演奏表現でしょう。
プレイヤーにとって一番大切な"耳"を鍛えて、頭の中の"ソフト"をバージョンアップする
─ こういったエフェクティブなギター・サウンドも積極的に取り入れている高野さんにとって、ギター・サウンドに関して一番こだわっているのはどういった部分ですか?

T:2通りあって、まず1つが、やっぱりいい楽器が持つ反応のよさや、鳴りのよさですね。いいギターであればあるほど、アンプ直結が一番気持ちよく鳴るし、右手の弾く位置や角度、力の入れ具合で思いのままにどんどん音楽の表情を変えられる。車に例えると、アクセルとブレーキ、そしてステアリングを思いのままに、ストレスなく操作できる感じですね。その一方で、僕はジャンクな物やビザールな物も大好きなんです。音の安定感も少なくて、作りも貧弱なんだけど、それでしか出せない"味"があるものは、やっぱりカワイイもんです。だから、僕の中でGR-20のようなギター・シンセやエフェクターは、味付け程度にとどめるか、極端な飛び道具として使うかのどちらかですね。その点に関しては、プロデューサー的な感覚で、この音楽にはどの楽器が合うだろうという点を常に考えながらチョイスしていきます。ですから、シチュエーションによって、僕のセッティングはまったく変わってきますね。
─ 楽曲全体の中で、どういうテイストが欲しいのかをはっきりイメージして、ギター・サウンドを作っていくことが大切なんですね。
T:そうです。だから、時間のある時にセッティングによる音の違いを試してみるようにしているんです。「エンジニア・モード」ですね。例えば、2本のケーブルがあって、高いのと安いのがあれば、必ずどちらも試してみる。そうすると、安いもののほうがいい場合もあったりするんです。そういったことを常にやっておくと、いろんな状況に素早く対応できるようになって行きます。マルチ・エフェクターのセッティングにしても、プリセット・パッチを聴く時に、ついついモデル名に騙されちゃったりするじゃないですか。だから、プリセット・パッチをチェックする時も、目をつぶって先入観を持たずに音だけを聴いて「この音が好きだ」というサウンドを探していくのがいいんじゃないかな。
─ 自分の中のサウンドに対する引き出しを広げることにもつながりそうですね。
T:そうですね。いつも思うんだけど、その考え方って、食の文化に似ているんですよ。インスタント食品と高級レストランの料理があったとしたら、どちらを選ぶか? インスタントでも、とてもよくできてる食品もあるし、登山の時など状況的にインスタントしか食べられない場合もある。でも、ちょっとお金に余裕があるんだったら、高級レストランで贅沢するのもいいでしょう。そんなふうに経験値が上がっていけば、いろいろと応用が効くでしょうね。それに、両方を混ぜてみるというのも面白いんですよ。高級感のある中に、ポンとチープなものがあるといったミスマッチを狙うんですね。
─ コントラストをつけるわけですね。

T:こういったことは、情報量の多い今の時代の中で、自分がどの方向に進んでいけばいいかという話しにもつながるのかもしれないけど、楽器をやっている人なら「どの音が好きか」ということを常に即決できるように準備しておくことは、とても大切だと思います。そうでないと、ウロウロして時間ばかりかかるし、お金もどんどん使ってしまいますから。好みをハッキリさせるということは、今の時代は、より重要かもしれないですね。
─ では最後に、楽器を楽しんでいる読者に、プレイするうえでのアドバイスをお願いします。
T:プレイヤーならば、まずは耳を鍛えることが大切ですね。その昔、坂本龍一さんがラジオ番組でやっていた音楽講座の中で「耳を鍛えるにはどうしたらいいか」というような話があったんです。そこで、例えば電車に乗った時に、自分の周囲で一体いくつの音が鳴っているかということを意識して聴き取るという話しがあって、僕はそれを実践していました。線路の音、風の音、誰かが喋っている音、車内のアナウンス、床のきしむ音。普段意識していない音に集中して、それを聴き分ける力ですね。耳を鍛えるというのは、今風に言い換えると、「頭の中のソフトをバージョンアップすること」です。または、「耳というオーディオ・インターフェースの解像度を上げていくこと」とも言えるでしょう。そしてもう1つ大切なこととして自分自身にも言い聞かせていることに、「物がないことを言い訳にしない」ということがあります。昔は、本当に機材も少なかったけど、「今と昔の音楽のどちらがいいか?」というと、それは分からない。宅録の知識が増えてくると、高級なオーディオ・インターフェースを使えばいい音楽が録れると思いがちじゃないですか。確かに、オーディオ的にはいい音で録れますが、いい音質で録れてもプレイやアレンジ、曲そのものがよくなければいい音楽にはならない。それに気づいたのは、最近よくセッションしているブラジル人の一流プレイヤーたちが、日本のプロがほとんど使わないような安い楽器や機材をうまく使いこなしているのを見てからです。楽器をやっている人は、自分の身体というハードウェアと、頭の中のソフトウェアの両方を鍛える必要があって、練習だけでなく、頭の中のソフト、つまり聴く訓練もとても重要です。ですから、耳を鍛えるということは、音楽をやっていくうえでは、とても大切なことだと思います。
Profile:高野寛
1964年12月14日静岡生まれ。B型。1986年、高橋幸宏とムーンライダーズ主催のオーディションに合格し、88年に高橋幸宏プロデュースによるシングル「See You Again」でデビュー。現在までに、16枚のシングルと、ベスト盤を含む14枚のオリジナルアルバムをリリース。90年代後半から、ギタリスト/プロデューサーとしての活動も始める一方で、原田郁子らとの4B、BIKKEらとのNathalie Wise、宮沢和史らとのGANGA ZUMBAなど、数々のユニットにも参加。今年5月に行われたHuman Audio Spongeの一夜限りライブにも、サポート・ギタリストとしてステージに立った。現在は、「HAAS」名義のソロ・ユニットの活動も開始し、インスト曲など、シンガー・ソング・ライターの枠を超えた作品を発表している。
HAAS(高野寛)オフィシャルサイト:
http://haas.jp
Information
■CD
GANGA ZUMBA 1st Album「UM」
Rhythmedia Tribe RXCD-21086
now on sale

■LIVE
【GANGA ZUMBA LIVE TOUR 2007】
8月21日(火) オルガホール(岡山)
8月24日(金) 新潟LOTS(新潟)
8月28日(火) イムズホール(福岡)
8月30日(木) 高知BAY5 SQUARE(高知)
9月2日(日) SHIBUYA-AX(東京)
9月5日(水) 広島CLUB QUATTRO(広島)
9月6日(木) ダイアモンドホール(名古屋)
9月8日(土) なんばHatch(大阪)
●ワンマンツアーの他、SUMMER SONIC(東京・大阪)、MEET THE WORLD BEAT(大阪)など、夏のイベントにも多数出演が決定。
GANGA ZUMBAオフィシャル・サイト
http://www.gangazumba.jp/
