mnavi Interview

Vol.06:Steve Jansen 「自分の声」、つまり自分のスタイルを見つけることが、すべての音楽家にとって一番大切なことなんだ

1970年代後半から80年代初頭にかけて活躍し、そのユニークなアイデア、華麗なファッション、斬新なサウンド、そして高い音楽性により、その後の音楽シーンに大きな影響を与えた稀有なバンド、JAPAN。そのドラマーとして、日本でも絶大な人気を誇るスティーヴ・ジャンセンが、初のソロ・アルバム『slope』を完成させた。そこに収められている完成度の高い楽曲、そして強烈なオリジナリティは、どのようにして形作られていったのだろうか。その真実の中に、時代を作った彼の、過去・現在・未来が見えてくる。

想像できないところから曲作りを始めることで、インスピレーションを刺激する

─ 長いキャリアを持つスティーヴ・ジャンセンさん初となるソロ・アルバムを制作するようになった経緯から教えてください。

スティーヴ・ジャンセン(以下、S):2001年に、デヴィッド(・シルヴィアン)とお互いにソロ・アルバムをリリースしようということで、レーベル"サマディ・サウンド"を共同でスタートさせたんだ。でも、そのうちに2人でコラボレーションをするようになって、それが結果としてNINE HORSESというユニットでの作品(『Snow Borne Sorrow』等)になったんだけれども、いずれにしても、レーベルを始めた時点でソロ・アルバムについては意識していたんだ。ちょうどその頃から、プログラミングされた電子音とアコースティック・サウンドとの融合ということに興味を持ち始めていたからね。その間も、僕はいろんなプロジェクトに参加していて、それらの合間を縫って作業をしていたんだけれども、自分自身のレーベルだから、期日的な制約も予算的な縛りも受けずに制作を進められたんだ。完全に自分のペースでレコーディングが行えたことは、とても大きかったよ。

─ 今回の作品は、聴いていて映像が目に浮かぶような楽曲の印象が強かったのですが、曲を作るに当たって、何か具体的にイメージしたようなものはあったのですか?

S:自分の中でイメージを作って、それに向かって作品を作るということは特にしなかった。ただ、今回のソロ・アルバムとはまったく別の次元で、ビジュアルに対して音楽を付けるということは、好きな行為なんだ。でも、自分の頭の中だけで何かを思い浮かべて、それに向けて音楽を作るというのは、僕はあまり意味がないと思っているんだ。実際に、そこに何か具体的なビジュアル・イメージあってこそ、初めて意味があると感じている。だから、自分の音楽が、結果としてビジュアルにマッチすると言われることは嬉しいし、理解はできるけど、それは例えばクラシック音楽と同じようなことなんだ。そういう意味で、サウンドをデザインするうえでは、特に何かをイメージしたり工夫したということはなかったね。

─ スタンダードなロックでは、最初にリズム・トラックから作っていったりしますが、このようなエレクトロニカ・テイストの楽曲を作るにあたって、具体的にはどのようなプロセスで曲作りを行ったのですか?

S:曲によっても全然違うし、もちろん、他のプロジェクトと同様にリズム・トラックからスタートする場合もあるけど、今回のソロ・アルバムに関して言うなら、多くの楽曲で、まず何らかのサンプルやループ、それは特定の雰囲気を作り出すものだったりするんだけど、そういったサウンドをきっかけに、曲に発展させていくことが多かったかな。ループにリズムを加えていったりね。最近は、ソフトウェアを使えば、本来はリズム楽器の音色ではないサンプルを組み合わせてリズムを組んだり、波形を切り刻んでリズムを構築することができるから、それは僕にとってひとつの面白味でもあるんだ。言い方は変だけど、定番の手法から逸脱した、ちょっと視点の違ったアブストラクト(抽象的)な物から曲作りスタートするというのは、自分にとってとても刺激的なんだ。いわゆる、普通の作り方で曲を作るとあまり面白くも感じないし、そこに新しい何かを加えようという気持ちも起こらない。だから、新鮮な音楽も生まれないんだ。だけど、自分も想像できないところからスタートすることで、自然とインスピレーションも湧いてくる。そこは、音楽を作るうえで大切にしている部分なんだ。

デヴィッド・シルヴィアン『The World is Everything』ツアーより

▲写真1:デヴィッド・シルヴィアン『The World is Everything』ツアーより(Photo: Mark Hughes)

時間をあけて作品を聴き直すことで、新鮮なアイデアが浮かんでくる

─ プライベート・スタジオの制作環境を教えてください。

S:スタジオでは、ほとんどソフトウェアを利用していて、サウンドをフィジカルに奏でると言う部分には、あまり頼っていないんだ。たまに、サウンドを手軽に引き出すためにHandSonic 15などを使うこともあるけれど、基本的に、すべてツールはPCの中に入っている。

─ 最近は、自宅でソフトウェアを駆使しながら1人で作品を完成させているミュージシャンも多くいますが、そのような孤独な作業の中で、クリエイティブさを失わない秘訣などはあるのでしょうか?

S:僕の場合は、ラッキーなことにソロ以外にもいろんなプロジェクトに参加させてもらっているから、曲を作り終えた後に、一旦楽曲を寝かせておく時間を作れるんだ。それが数日から数週間になることもあるし、場合によっては1年にもなることもあるけど、そうやって時間を置いて改めて聴き直すことで、また新鮮なアイデアを楽曲に取り込めたり、自分の間違いに気付いて修正することもできる。もちろん、作曲時には気付いてなかった面白さも発見できたりと、いろんな部分に刺激を受けて、音楽をクリエイトしていけるんだ。時が経って、自分の人生が変わって、考え方が変われば、音楽の聴こえ方も変わってくるのと同じように、作り出す音楽も、一緒に変化していくことができるんだ。

─ なるほど。よく分かります。

S:もちろん1人で作業していれば、部屋の中に閉じこもって、ソフトウェアと自分だけの世界から抜け出せなくなることもあるよ。しかも、新しいソフトウェアを導入すれば、その使い方を学ばないといけないというプロセスも生じてくる(笑)。でも、そこは明確な区切りをつけて、クリエイティブでいる時間と、テクニカルに学んでいく時間のメリハリを付けることが大切だ。今では、曲作りをしながらミキシングも行える。つまり、作品の最終的な状態を確認しながら曲作りを行えて、それを一旦止めても、またいつでも同じ状態を再現させることができる。昔なら、ミキサーのレベルをひとつひとつ元に戻さないといけなかったけどね(笑)。だから、僕がアマチュアのクリエーターにアドバイスすることがあるとすれば、テクニカルなことでクリエイティブな発想を失わないように、一旦作業を止めたりすることで、視点を変えて見直す工夫をしてみる、ということだね。