mnavi Interview

Vol.14:藤原ヒロシ 「最新のテクノロジーを使って、どれだけアナログっぽいことを活かせるか」ということが、僕の中では重要なんです。

80年代の日本にクラブ・シーンを根付かせた伝説的クラブDJであり、ファッション、カルチャーなど様々な分野で常に時代をリードし続けるカリスマ、藤原ヒロシ。一昨年に"DJ引退宣言"を行いファンを大いに驚かせたが、その一方でアコースティック・バンド「IDF」として活動するなど、その歩みは止まることを知らない。そんな藤原ヒロシは、どのように音楽と接しているのだろうか。日ごろから愛用しているというエディロールR-09の活用術を聞くと共に、藤原ヒロシの音楽に対するこだわりを語ってもらった。

好きなレコードをかけるという行為が、僕にとって新鮮だった

─ 藤原さんが音楽と出会ったきっかけは何だったのですか?

藤原ヒロシ(以下、F):僕には姉がいて、その姉が聴いてた音楽に影響を受けた部分が大きかったですね。中には、半ばむりやり聴かされていた音楽もありましたが(笑)、子供の頃には、古井戸(加奈崎芳太郎と仲井戸麗市のフォーク・デュオ)やRCサクセションをよく聴いていました。もちろん、テレビから流れてくる歌謡曲も普通に聴いていたんですけど、人と違う音楽を聴き始めたのは小学校時代かな。小学校5年生くらいの時に、KC&ザ・サンシャイン・バンドとか、ジェームス・ブラウンといった音楽が、自宅でよくかかっていたんです。その頃から、ソウル・ミュージックを聴き始めました。

─ 当時は、純粋にリスナーとして音楽を楽しんでいた感じですか?

F:はい。ずっとリスナーのままでしたね。

─ そのリスナーから、プレイヤーとして音楽を楽しむようになったのは?

F:本格的な意味で"プレイヤー"と言うのであれば、やはりDJになってからでしょうね。

─ ギターやキーボードといった、いわゆるバンド的な楽器ではなく、DJというスタイルを選ばれたきっかけは?

F:何だろうな......。バンドとか、本格的にやろうと思ったことはなかったんです。ただ、好きなレコードをかけるっていう行為自体が、僕にとって新鮮だったんでしょうね。これなら自分でもできる、と思えたんですね。僕にはコレクター的な素質があって、昔からいろんなレコードを持っていたんです。そうしたら、仲良くしてくれるお店の人から「レコード持ってるんだったら、ウチでかけてみれば」って言われて、お店にレコードを持って行ってかけたのが、DJの始まりでしたね。もちろん、DJという存在が新しかったということもあったんですが、自分の中では、ごく自然な流れだったんです。

─ そうして、常に時代の最先端をリードし続けて来た藤原さんが、現在、アコースティック・バンド「IDF」で活動されているというのも、とても興味深く感じています。

F:僕としては、「バンドをやっている」っていう感じでもないんですけどね。歳を取ったら、皆でのんびりとギター弾いて音楽をやれたら楽しそうだな、と。なぜかよく分からないんですけど、何かのタイミングで、そうなっちゃったんですね。まあ、老後の楽しみを、ちょっと早くやり過ぎたかな、って感じなんですけど(笑)。


音楽を楽しまないと、音楽を作ることが難しい時代になってきている

─ その昔、純粋にリスナーとして音楽を聴いていた頃と今とでは、音楽の楽しみ方は変化しましたか?

F:いや、それは全然変わってないです。昔から家でギターも弾いていたし、音楽を聴くのも好きだったし。根本的な変化は、まったくないですね。

─ これだけ巷に音楽が溢れていると、聴きたい音楽は日々増えていますか? それとも、逆に絞られていますか?

F:そこは難しいですよね。いい音楽がどんどんアーカイブされていくので、新しい音楽が自分の中で蓄積されていく空きスペースが、少なくなってくるんですよ。これは僕に限らず、歳を取ると、誰でも皆そうだと思うんですよ。分かりやすく言うと、例えば今のデジタル・オーディオ・プレーヤーなんか、何千曲も取り込んでおくことができるじゃないですか。僕は、プレーヤーの中身を入れ替えたりしないので、その中にどんどん音楽が溜まっていくわけです。そうすると、普遍的にいい音楽というのは、プレーヤーの中にずっと入ってるわけで、シャッフル機能を使って再生すれば、何十年も前の音楽と、プレーヤーに取り込んだばかりの最新の音楽も、同じ確率で聴くことになるわけです。そう考えると、昔の曲が新鮮に聴こえて驚くことも多いですよね。だからと言って、僕も新しい音楽を排除しているわけではなくて、新しいもので自分の好きな音楽を見つけられれば、その方が嬉しいと思うんですけどね。

─ 一般的なリスナーのレベルで、音楽の聴かれ方が大きく変わってきているんですね。

F:ポータブルCDプレーヤーの時代は、CDを1枚入れたら、そのCDしか聴けないわけじゃないですか。そしたら、そのCDばかりを延々と聴くから、シングル・カットされていなくても「この曲はいいな」と感じる、自分なりの名曲を見つけられたと思うんです。僕はこのアルバムの何曲目が好きだ、っていうやつですね。でも今の時代は、ずっと同じアルバムを擦り切れるまで繰り返して聴くというような音楽の聴かれ方は、随分減ってきているんじゃないでしょうか。

─ 音楽の聴かれ方がそのように変わってきた中で、音楽を提供する作り手側は、どのような意識を持つことが必要だとお考えでしょうか?

F:「音楽を楽しむ」っていうことを前提に持ってこないと、音楽を作ることは難しくなると思います。いわゆる「CDが売れて儲かる」という世の中ではないじゃないですか。大量生産的にスタジオでバンバン曲を作って、それをCDにして売るっていう考え方は、もう通用しなくなっていると思うんです。やっぱり僕は、「別に、売れなくても楽しめればいいかな」っていう、楽しむことを前提に音楽を作る方がいいと思うんです。音楽に対する本来の姿勢に戻る、という意味でもね。だから、音楽の聴かれ方が変わることで、ライブをやって楽しむだとか、音楽への接し方が変わってくると思いますし、実際に、もう変わり始めていると思っています。特に今では、プロとアマチュアの機材の格差もほとんどなくなっていますから。そもそも、差がなくていい気もしているんです。できる人、やりたい人が音楽をやっていくというのが、いいんじゃないかな。