mnavi Interview

Vol.15:Akiko Grace ピアノ・トリオの可能性やアイディアは尽きることがないので、これからも突き詰めていきたい

2008年7月23日に通算10枚目のアルバム『グレースフル・ヴィジョン』をリリースしたアキコ・グレース。新生ピアノ・トリオによる本アルバムは世界のファースト・コール、ラリー・グレナディア、新進気鋭ドラマー、アリ・ホニックを迎え、彼女独自の世界観を最大限に表現したアルバムに仕上がっている。今回は彼女のピアノ・トリオに対する思い入れをはじめ、最新作のアルバムについてじっくりと話を聞くことができた。特にアルバムについては、11曲目の演奏時間が4分18秒であることの理由に注目。ジャズ・ピアノを志したきっかけから、ピアノと仲良くやっていくコツ、さらに、ジャズ・ピアニストとしての観点から、ローランドピアノ・デジタルRG-3を試奏していただき、インプレッションなどを自由に語ってもらった。

「音楽でいう美とはどういうものだろうか」というテーマをひとつの世界観としてこれまで活動してきました。「グレースモード」は、大切にしている私の「世界観」。

─ 7/23にリリースされたニュー・アルバム『グレースフル・ヴィジョン』について、最初にお聞かせください。ライナーノーツに書かれていた「グレースモード」という言葉がとても印象的だったのですが、どのような意味があるのですか。

Akiko Grace(以下、A):「グレースモード」というのは、私の中で大切にしている世界観のことです。オリジナルであっても、ジャズのスタンダードであっても、クラシックであっても、リズムやハーモニーの中に「グレースモード」という世界観が入っているんだと思います。

─ モード・ジャズのモードとは違うということでしょうか。

A:はい。そうですね。

─ アルバム全体を通して演奏がクールでリリカルな印象を受けました。それは「グレースモード」という世界観からあのような演奏が生み出されたのですか。

A:私は「音楽でいう美とはどういうものだろうか」というテーマをひとつの世界観としてこれまで活動してきました。静かできれいなだけでなく、その中に芯の強さがあって初めて美があるのだと感じています。今回通算10枚目のアルバムとなりますが、ひとつの区切りでもあり、新しい出発でもある大事な作品です。また、NYトリオによるレコーディングは5年ぶりですが、原点であるNYに戻ってきたということ。これらすべてが「グレースモード」を編みあげる背景になっているのだと思います。

─ 今回トリオを組まれるのにあたって、新しくドラマーのアリ・ホニックを選ばれた理由は何ですか。

A:アリ・ホニックは私と同世代ということもあって、既存のジャズ・スタイルを持ちながらも、新しいリズム・アプローチにも柔軟に対応できるドラマーだからです。彼のその感性と共に、楽曲を創造していくという意味で魅力的な要素を加えてくれました。その点からも今回の新生トリオは面白い組み合わせになっていると思います。

─ 今回のアルバムではジャズとクラシックの両方の楽曲が収録されていますが、それぞれで表現方法を意図的に変えられることはありますか。

A:私は、クラシックもポップスもジャズのスタンダードも、アプローチの仕方は基本的に変わりません。私にとってアレンジするということは、元の曲の持つ良さを理解しながら、一度分解して、自分なりに一歩踏みこんで組み直す作業です。特にジャンルは意識せず「自分の感性に近いな」と感じるものがあったら、そのメロディやハーモニーを取り出し、強調して、世界観を一致させていくんです。

─ 確かに聴いた印象は、どの楽曲も演奏と作曲のどちらかに偏るのではなく、両方一体化して作品を作られているように感じました。

A:どの楽曲もジャズのような即興の自由さを残しつつ、どれだけその曲のイメージを汲んで組み直していくかが大事だと思っています。曲も、即興演奏をするような感覚で作っています。作曲した作品を残す方法にしても、クラシック音楽が作られていた頃は譜面に書いて残すしかなかったのが、レコーディングが行われるようになってからは、演奏そのものを残すことができますよね。ですからこれからは「演奏」イコール「作曲」といった側面が強くなってくる。ジャズのように「即興」という要素も加わると、それらはより密接になっていきますよね。音楽全体をみても、演奏と作曲は、これからもより一体化していく方向に向かうと私は考えています。


11曲目を4分18秒にしたのは、昔から「418」という数字が好きだったからです(笑)

─ 今までの活動での演奏スタイルはピアノ・トリオがとても多いようですが、ピアノ・トリオにこだわる理由は何かありますか。また、他にやってみたいスタイルがあれば教えてください。

A:ピアノ・トリオは、ベース・ラインの上で音を奏でられる独特のタイム感があります。その可能性やアイディアはまだまだたくさんあり、突き詰めていきたいのです。また、このアルバムを作る前に1年間、ピアノ・ソロで月に1曲ずつ曲を書いていたのですが、ピアノ・ソロも大変奥が深く、トリオとは違う世界があります。ピアノ・トリオと同様にピアノ・ソロもずっと突き詰めていきたいと思っています。

─ 今回のアルバムの11曲目にサイレント・トラックがありますが、4分18秒にした理由は何ですか。最初に聴いた時には気になって音量を上げたり、曲目を見直したりしましたが(笑)、やはり気になったので教えていただけますか。

A:今回のアルバムは10曲目までがひとつの物語になっているんです。その物語の余韻を十分楽しんでいただいた後で次の曲を聴いていただきたいという意味合いを11曲目に込めたんです。演奏時間を4分18秒にした意味ですか。実は私は昔から「418」という数字が好きだったんですよ(笑)。


ジャズに対して私の心を開いて聴いていた。オスカー・ピーターソンの『カナディアナ・スート』でジャズ・ピアノに目覚めました

─ アキコ・グレースさんがジャズ・ピアノを志すきっかけとなったのはどんなことでしたか。

A:中学2年の時に自宅のリビングで流れていたラジオから偶然聴こえてきたジャズがきっかけですね。それまでもジャズをなんとなく聴いてはいたのですが、なぜかその時に、ジャズに対して耳が開かれたんですね。

─ その時に流れていたのは誰の何という曲か覚えていますか?

A:オスカー・ピーターソンの『カナディアナ・スート』(カナダ組曲)の中のリリカルな曲です。

─ ジャズに目覚めてからいろいろなピアニストを研究されたと思いますが、フェイバリット・アーティストをあえて3人挙げるとすると誰ですか。

A:たくさんいるので難しいですね(笑)。グレン・グールド、レニー・トリスターノ。それから親がよく聴いていて、自分自身も一番長く聴いているのがミケランジェリですね。

─ この3人を選ばれた理由は何ですか。

A:グレン・グールドは独自の世界を大胆にクラシックの中で打ち出している姿勢、ミケランジェリは磨き抜かれた音色、音の出し方がすごくいいです。レニー・トリスターノは彼の持つ個性的な世界観が好きです。