mnavi Interview

Vol.20:KAN 歌も演奏も身体に叩き込むことが大事。「100回やるってこと」この繰り返しの練習が最良の方法です

2008年11月19日にライブ・アルバム『LIVE 弾き語りばったり #7 ~ウルトラタブン~ 全会場から全曲収録』をリリースしたKAN。このアルバムは2008年6~7月に行われた同タイトルのライブ・ツアーの全国13都市・17公演をすべて録音。その各会場から1曲ずつをセレクトし、演奏全曲を収録した作品だ。今回のインタビューでは新作ライブ・アルバムの選曲にまつわる秘話、そしてパリ留学時に自分の音楽スタイルを見直すきっかけとなったエピソードなどを自由に語ってもらった。

アルバムの選曲のテーマは、「ピアノ1台でできるもの」

─ まずは昨年の11月19日に発売されたKANさん初のライブ・アルバム『LIVE 弾き語りばったり #7 ~ウルトラタブン~ 全会場から全曲収録』について、選曲の理由や曲順などについて教えてください。

KAN(以下、K):曲順はライブと同じメニューで、全会場から1曲ずつ選んでいます。15曲×17公演なので、全部で255あるんですけど、成績表を作って減点方式で採点してチョイスしました。この案を考えた当初はどの曲も17テイク録れるわけだから、そこそこ良いのが並ぶだろうと思っていたんです。ところが、いい演奏がいっぱいある日も1曲しか出せないし、一生懸命やったんだけども、ちょっと惜しかったねという時も何か出さなければならないので、選曲に苦労しました。

─ 全会場から収録ということはすべて録音されていたということですよね。

K:はい、コンピューターを中心に据えたレコーディング・システムを使って録音しました。マイクはピアノに3本と歌、それからステージの後ろとか客席、天井などを合わせて全部で8から10本くらい使っています。1人のエンジニアが同じ機材をセッティングしているので、会場による反響やピアノの違いがヘッドホンで聴くとよく分かると思います。

─ 今回のライブで演奏された曲を選ばれた基準というのはありますか?

K:選曲のテーマとしては、「ピアノ1台でできるもの」という感じですね。元々ずっとバンドでしかやったことがなくて、弾き語りを始めたのは2005年からなんですけど、ピアノ1つでできる曲が数える程しかなかったので、バンドでやっていた曲をピアノ用にアレンジして、少しずつレパートリーを増やしているところです。CDではいろいろなタイプのキャラクターの曲を出せるのですが、1人だとミディアムからスローの、ある一定方向の曲が並びがちなので、カバーを入れて雰囲気を散らすようにしてます。特にビリー・ジョエルは、弾き語りのシリーズでは毎回何らかの曲をやっていますね。Mr.Childrenの「抱きしめたい」は、僕がコラムを書いている「LUCKYRACCOON」という雑誌のライブ・イベントで、僕とMr.Childrenの桜井君とで「パイロットとスチュワーデス」というユニットを組んで歌ったんですが、すごく良い曲だと感じていたので、1人でもやりました。

─ KANさんというと「愛は勝つ」が非常に心に残っているのですが、なぜ今回のライブ・アルバムには収録されていないのでしょうか。

K:あの曲はビリー・ジョエルの「Uptown Girl」を目指したすごくストレートでポップなロック・ナンバーなので、もちろんバンドでのライブではほとんどの場合選曲してきましたが、1人の弾き語りではいくらやってもスカスカでたまらないんですよ(笑)。「自分が演奏してて良いな」と思えないものを無理してやるのもどうなんだろうか、と思ってやっていませんでした。しかし、去年の8月にあるイベントでアンジェラ・アキさんの生演奏を見て、その予想していた以上のすごさに驚愕したことは、自分の"弾き語り"に対する考え方を大きく修正するキッカケになりました。そんなこともあって9月のイベントからは弾き語りでも「愛は勝つ」を演奏しています。


自分への試練のために始めた弾き語り

─ ピアノの弾き語りを始めたきっかけは何ですか?

K:2002年春から2年5ヵ月の間パリの音楽学校に通っていまして、その時に一緒に学んでいた生徒から「あなたが日本でやっていたのを聴かせて欲しい」と言われたことがあったんですよ。アーティストとしては、相手が外国人で日本語が分からなくても、ちゃんと歌って、「言葉が分からないですけどカッコいいですね」って言わせるくらいの自信を持っているべきだったんですけど、結局何となく弾いてごまかしてしまったんです。メンバーがいて機材が揃っていればいいんですけど、ピアノひとつ置かれて何もできないというのはすごく格好悪いし、アーティストとしてまずいなと痛感させられたんです。それで、帰国後、本物のアーティスト"風"活動ということで、「弾き語りばったり」というライブを始めたんですよ。1人で、ピアノ1台だけでも、来ていただくお客様に納得してもらえるアーティストにならなければいけないと思って、自分の試練のためにやっている感じですね。

─ ピアノの弾き語りは手と歌がうまく分離しなくてはならないので、難しいと思うのですが、秘訣とか効果的な練習法があるのですか?

K:これはもうピアノだけじゃなく、他の楽器も一緒だと思いますけど、「100回やるっていうことだけ」だと思います。歌も演奏も身体に叩き込むことが大事です。TRICERATOPSという3ピースのバンドがあって、今年いきなりファンになって2回ライブを観に行ったんですけど、ギター・ボーカルの和田くんがすごく複雑でトリッキーなフレーズを弾きながら歌ってるんですよ。彼らと話しましたが、できるまで何回でも繰り返してやる、100回でだめなら200回やる、ってことだと思います。だいたい誰に聞いてみても同じ答えが返ってきますから、やはり繰り返しやるっていう方法が最良なんでしょうね。あと、秘訣としては自分の演奏を録音して聴くといい、という考え方もあるようです。聴いて嫌になっちゃうこともあると思いますけど(笑)。

─ 普段コンディションを保つための練習は何かされていますか?

K:特にこれといった決まったメニューはないのですが、スケールとアルペジオとオクターブで、数分間でできる基本的な指の練習パターンを作っていて、必ず初めにやるようにしています。それとハノンとバッハ「2声のインヴェンション」は基本練習としてやりますね。

─ 今後の活動予定と興味があってやってみたいと思っていることはありますか?

K:バンドとピアノの弾き語りを順繰りにやっていく予定です。それをやっていく中で新しい作品を出したいとも考えています。やってみたいことは、もっと大きな編成での曲を書いてみることですね。90年代の終わり頃から、ストリングスのスコアを書くのがすごく楽しいというのもありますし、音楽家としての最高峰は指揮者だと思っているんです。一生に一度は自分で交響楽の曲を作ってオーケストラの棒を振ってみたいと......。それで、幸運にも今度NHKのBSでオーケストラと一緒に演奏できる番組がありまして、これはよいチャンスだと、オーケストラ・アレンジに挑戦させてもらうことにしました。