歌って何だろう、オケって何だろうという
根本的なことから考えてレコーディングを行った
─ 新作は、11曲で一遍の物語を成すようなストーリー性が感じられますが、このような世界観は、制作に入る段階で明確に持っていたのですか?
より子(以下、Y):「こういう風にできたらいいな」という漠然としたテーマを持ってはいました。ですが、実際には曲を作っていきつつ、その中から1つ1つのポイントを見いだしていって、次第にイメージの輪郭がハッキリ見えてきたという感じでした。そこで「記憶」というキーワードが明確になったんです。ですから、アルバム・タイトルも最後に付けました。これまでも、曲を作りながら自然とテーマが絞られていくことは多かったんですが、今回は、曲を作りながら浮かんできた風景がこれまで以上に鮮明だったので、そこが今までの作品との大きな違いかもしれません。
─ 前作(『願う』)と比較して、サウンド面での広がりも強く感じられましたが、制作面で何か変化はありましたか?
Y:今回は6曲ほど、MIDIの打ち込みからアレンジメントまで、全部自分でやったんです。ボーカル録りもコーラス・ワークも、弾ける楽器は全部自分でやりました。これまでも、簡単な素材録りくらいは自分でやってたんですが、ここまで本格的に行ったのは初めてでした。ものすごく勉強もしましたけど、おかげでレコーディングのスキルも随分と向上できたので、より自分のイメージを鮮明に出せたと思ってます。
─ より子さん自身がすべての作業を行った曲を、具体的に教えていただけますか?
Y:「Memory of Soul」、「メロスのように」、「Shadow」、「働く!より子ブギ」、「ミカヅキ」、そして「あなた」です。これらの曲は、私が作るデモの完成形がそのまま楽曲の最終形というスタイルだったので、自宅での作業は本当に孤独でしたね。光合成もせずにずっと引きこもってました(笑)。そうすると、人間ってだんだん精神が病んでくるんですよ。やっぱり、朝起きて、太陽を浴びて夜に寝るっていうことは、大切なんだなって、曲作りが終わって痛感しましたね(笑)。

─ その他の曲は、アレンジャーさんに?
Y:はい、逆にアレンジャーさんに完全にお任せしました。ところが、自分で好き放題に作っていった曲とアレンジャーさんにお願いした曲の世界観が、びっくりするくらい、見事につながったんですよ。もっと曲ごとにテイストが散らかるかと思っていたんですけど。しかも世界一周旅行的なバリエーション感も加わっている。それだけ、今回の制作にかかわっていただいた方との循環性、バランスがうまくいったんだと思います。アレンジャーさんに完全にお任せした曲も、すごく好みのアレンジばかりで、作り終わった時に「不思議だなぁ」と感じました。
─ アレンジや録音まで自分で行うようになって、曲作りの手法や考え方がこれまでと変わったようなことはありましたか?
Y:作曲手法そのものは変わってないんですが、これまで感性や感覚でやっていた部分について、きちんと理論的な裏付けを取るようになりました。例えば、ベース・ラインが上がって行った時に、他のパートが下がっていくことでフレーズがうまくかみ合ったというような場合、これまでは「何でうまくかみ合っているのか?」ということは、考えたことがなかったんです。そうした方が好きだから、気持ちいいからっていう本能的な判断だけで。それを今回は、1つ1つ検証していったんです。1つの音に対しても、どこまで音を伸ばすべきなのか、音を伸ばす意味は何なのか、ということや、歌だったらどこまでビブラートをかけるのか、とかまで考えて。日本語の歌詞も全部ローマ字に直して、「あ」という言葉でも4分音符で取るのか、16分なのかなど、すごく細かいところまで考えたんです。もう、考え過ぎて、眼球が爆発するかと思いました(笑)。でもそれをやったことで、ボーカルのスキルがものすごく上がったと実感しています。
─ そこは音を聴いて真っ先に感じました。今回の作品は、これまで以上にボーカリストとしての存在感が際立っていて、そしてそれを作り込まれたオケがしっかりと支えているという関係性が素晴らしかったです。
Y:わかっていただけましたか! それは、エンジニアさんが一番喜ぶと思います。まさにその部分、ボーカリストとしての立ち位置やオケとの関係性、両者の分離感をものすごく意識してレコーディングを行ったんです。それこそ、「歌って何だろう? オケって何だろう?」という根本的な部分を考えながら、スタートした作品だったんです。





