今の世の中、大事なことも忘れられている
だからこそ、魂の記憶を大切にしたい
─ 今回、インディーズ時代に作られた「ほんとはね。」と「あなた」が"記憶バージョン"として再収録されていますが、改めて今歌ってみて、作曲した当時と何か違った感情が湧き起こるようなことはありましたか?
Y:「ほんとはね。」を再収録した理由が、実は今回のテーマである『記憶』というタイトルに深く通じているんです。ちょっと話しが逸れますが、昨日の夕食、一昨日の夕食って、すぐ思い出せないじゃないですか。でも、小さい頃の記憶って、昨日や一昨日よりもずっと前のことなのに、すごく鮮明に覚えていたりしますよね。それって、よく考えたらとても不思議なことで。実は私も、1歳の頃の記憶があるんですよ。ちょっと怖い記憶。これって何だろうって改めて考えてみたら、それもひとつの感動なんじゃないかと思うようになって。これまで、"感動"ってよいことだけだと思ってたんです。でも、怖いことも含めて、"何かを感じて動くこと"が、"感動"なんですね。そんな感動による記憶って、脳ではなくて、魂の中に残るものなんじゃないかって思うんです。
─ 魂の記憶。いい言葉ですね。
Y:「ほんとはね。」は、私が9年前に最初に歌った曲で、私はそこからスタートしたんです。この曲と一緒にいろんな経験をしてきました。忘れたかった記憶も、忘れたくない大切な記憶もありますが、それらが時と共にすべてひとつになって、今、その記憶からどんどん芽が出て、すごくきれいな花を咲かそうとしているように感じるんです。「ほんとはね。」をある日のライブで歌っていて、「あ、私、いい恋したな」と思った瞬間があって。それまでは、切なくて、泣いてるだけの「ほんとはね。」だったのに、その日、初めて笑ってくれた感じがして……それが、すごく嬉しくて。昔の記憶があるからこそ、今の「ほんとはね。」があって、今の私がいる。だから今の「ほんとはね。」を、すごくみんなに聴いてもらいたくて、このアルバムに収録したんです。
─ 「あなた」もそのような理由から?
Y:この曲は、同じ"記憶"でも"忘れていた記憶"なんです。4年前に作った曲なんですが、これまでずっと歌ってきた中で、「もしかして、私にはまだ忘れている記憶があるのかもしれない」と感じ始めたんです。それで改めて、この曲をどう感じるのか考えていたら、作った時には忘れていた、魂の中の遠い記憶がよみがえってきたんです。「あ、この曲には続きがあったんだ」って。それが分かったら、今後はこの曲自身がこのアルバムに入れて欲しがってるように思えてきて、これは"記憶バージョン"として入れなきゃいけない、と思って再収録したんです。
─ 完全に忘れてしまったように思えることで、何かのきっかけで、急にリアルに思い出すことって、たくさんありますよね。
Y:Fantom-Gのピアノがきっかけで「ミカヅキ」ができたっていうことも、その音色が私の遠い記憶、魂の中にあったからだと思うんです。この曲のピアノのフレーズは、考えて作ったものではなく、思い出したように生まれてきたフレーズ。自分自身は見たことがない風景でも、「懐かしい」と感じることってありますよね? それって、脈々とDNAに刻まれている記憶だと思うんです。でも今の世の中、いろんなことに無意識になり過ぎて、大事なことをどんどん忘れていっているような気がする。だからこそ、余計に魂の記憶を大切にしたいと思うし、いい記憶をちゃんと魂の中に、DNAに残したいから、私は歌を歌って、楽器を弾いているんです。今、すごくそう感じています。




