日本だけで物事を見てると、
それで終わってしまうような気がする
─ 今回はミックス・エンジニアに、グラミー受賞を十数回受賞している名エンジニア、アル・シュミットさんを迎えていらっしゃいますが、それはどのようなきっかけからだったのですか?
M:もちろん彼の音が好きだったからお願いしたわけだけど、ミックスにこれだけのノウハウを持つエンジニアと組むのは、今回が初めてだったんです。これまでミックスをしてもらっていたトム・タッカーは、ミックスもやるけれど録りもやるというオール・ラウンダーでしたからね。それで、アル・シュミットと一緒に作業して分かったことは、やり方がはっきりしていて、仕事が速いということ。デメリットとしては、オリジナルができにくいということかな。彼はもう、完全に自分のスタイルを持ってますから。例えて言えば、用意してくれるフライパンっていうのは、何種類かしかないわけです。決して金網を持ちだしてきて、網焼きにすることはない。寿司屋に行って「バーベキューやってくれ」っていうヤツはいないでしょ?(笑) 寿司屋は寿司屋なんですよ。だからこそ、彼の音の方向性に行きたい時は、彼に頼むしかないわけです。
─ 音楽を本気でやっていこうと思った場合に、今の寿司屋の例えのように「自分はこうだ」とハッキリさせた方がいいのか、それともいろんなものに対応できる方がいいのか、松任谷さんはどのように考えていますか?
M:そこは、いろいろと難しいところなんだけれども......。ちょっと話が逸れますが、『オランダの光』っていう映画があるんです。オランダの光に魅せられる画家や写真家が、すごく多いらしいんですよ。オランダに行くと、光が全然違うってみんな言うんですって。なぜ違うのかということを、インタビューや実験で解き明かそうとする映画で、僕は大好きなんです。その中で、「あっ」と思ったことがあって。空気中の塵っていうか、目には見えない物の乱反射が光の正体だって言うんです。光そのものが同じでも、目に見えない塵が乱反射することで、オランダにしかない光ができているという解説が入るんですが、僕は結構、そこに心を打たれていて。音も一緒だと思うんですよ。
日本とアメリカで音が違うっていう話がありますよね。僕が初めてアメリカでレコーディングをした時に、「アメリカの音って、何こんなに抜けがいいんだろう」って驚いたんです。日本で録ったマスター・テープをアメリカで再生した瞬間に、全然違う音がしたんですよ。うまく言葉で説明できないんですが、要するに「いい」とか「悪い」とかではなく「全然違う。僕はこんなものは作ってない」って思ったんです。それでもう訳が分からなくなっちゃって、その時は向こうのエンジニアに頼るしかありませんでした。『オランダの光』を見ると、その時のことを思い出すんです。そういったアメリカの環境が生み出すものなのか、理由はよく分からないんですけれども、アメリカのミュージシャンやエンジニアって、自分が「これだ」と思ったものを積み上げていって、自分の"ベスト"を作るんです。でも日本では、あっちでこれがいいって言えばちょっとやってみる、こっちでこれがいいと言えばそれもやってみる。だから、自分のスタイルをきちんと持ってる人って、あまりいない。「このスタイルでやりますか? あのスタイルでやりますか?」って聞いてくる人は多いんだけど、「私のスタイルはこれです」って言う人は、ほとんどいません。
その点、海外のミュージシャンは、みんなハッキリしてますね。それでいて、情報はきちんと行き届いている。例えば、誰が新しいマイクを使ったら、自分も使ってみて「これはこうだ」という意見を持つわけです。それが日本だと「誰々が使ってたから、このマイクを使ってるんです」っていう話になる。「今これが流行ってるらしいから」だとか。「君の意見はないのか?」って、僕は思うんです。「こういう音源で、曲がこういう風にできているから、このマイクを使うんだ」とか、「この人はこういう声だから、僕はこのマイクだと思う」っていう話だったら理解できるんですが、そういう人は少ないですよね。ですから、これが本気で音楽をやっていこうという方のヒントになるかどうかは分かりませんが、僕は海外に行くことを勧めます。考え方の違いを目の当たりにしないと、やっぱり「井の中の蛙」になってしまう。日本だけで物事を見てると、それで終わってしまうような気がするんです。




