毎日楽器を触っていると、
ある日突然、楽器の存在を忘れたかのように
音が鳴らせるようになる

─ 知識は知識として必要で、それを身に付けたうえで、自分の考え方、意見をしっかり持つことが大切だ、と。改めて考えると、これは音楽に限らず、あらゆる物事に当てはまるお話ですね。
M:ミュージシャンって、基本的にそんなに器用じゃないんですよ。それは、何をする人でも同じだと思います。例えば、いろんな料理を作れる人が、料理以外のことでも何でもできるわけではないじゃないですか。でも「何でもできる」と思っているのが、日本人なのかもしれませんね。外国人は、そういう意味では現実をきちんと見ていて、「自分はこれしか出来ない」っていうことが分かっている。だからこそ「自分はここを頑張る」と、考えられるわけです。
面白い話があってね、ギタリストのマイケル・ランドウに、かつて僕はハネたリズムを弾かせようとしたんですよ。R&Bみたいなね。彼も2時間ぐらい大汗をかきながら一生懸命やってくれてたんだけど、どうしても弾けないわけ。「もうちょっとハネた感じで。もっとブラックな感じだよ」って僕が言ったら、「オレは白人だから、黒人の血がないんだよ」ってマイケルに言われて。「オレはこういう解釈ならできるけど、ブラックな感じならポール(・ジャクソン・ジュニア)に頼んでよ」って。当時、マイケルとポールはよく一緒にやってたからね。それで、「そりゃそうだ」って話になったんです。この話からも分かるように、結局、マイケルも自分のことがよく分かってるわけです。何ができて、何ができないか。
─ それを日本にいて学ぶことは、難しいでしょうか?
M:残念ながら、難しいと思う。例えば、日本人がヒップホップをやってるじゃないですか。あれって、アメリカ人には考えられないことだと思うんですよ。ヒップホップという音楽は、日本人の血にはないものですから。白人だって、できないものなんですもん。エミネム(90年代にもっとも成功したと言われるアメリカのヒップホップMC)はそこがちゃんと分かっていて、"白人のヒップホップ"をやってるから話は別だけど、日本人は、日本のヒップホップをやってるわけじゃなくて、もろに黒人のヒップホップをやろうとしているわけで。そこが根本的に違うわけです。そこが分かってない。
─ 己を知るということが、とても重要になってくるわけですね。
M:ミュージシャンって、ある所から自分との戦いになるわけです。最初は運もあっていろんな仕事ができたとしても、そこから先は、自分の中にどういう引き出しを作っていくかが勝負になります。ですから、自ずと自分と向き合うことになって、そうなると、どうしても自分の血のことは考えるようになりますね。もちろん、若い人はそこまでシリアスに自分と向き合うチャンスがまだないだろうから、よく分からない話かもしれませんけれども。
─ そこに到達するための最初の一歩と言えるかもしれませんが、これから楽器を始めようとする人が、より楽器や音楽を楽しめるようになるためのアドバイスがありましたら、ぜひ教えてください。
M:毎日のように、楽器を触ることです。そうするとある日突然、そこに楽器の存在を忘れたかのように音が鳴らせるようになりますから。
─ それは、「楽器と身体が一体化するような感覚になれる」ということですか?
M:そうです。実は去年、僕はギターとベースを始めたんです。それで、最初に言ったプリプロダクションを行ったわけです。もちろん、ギターを触ったことくらいはありますが、ちゃんと楽器を買って、ここまで練習したのははじめて。エレキ・ベースに関しては、生まれて初めて弾きました。今でもまだ、フレットを見ないとどこを押さえているのか分かりませんけど(笑)、それでも毎日弾いていたら、ある程度は身体の一部になるんですよ。だから逆に言えば、そこはテクニックの問題ではないわけです。「こういう音を出したい」という気持ちと、ある程度の知識とのバランス。それによって、身体と楽器の一体感は生まれてくるんです。そこを楽しむと、いいんじゃないかな。




