裏方に徹するつもりが、
"ター・ナー・カー"として有名になってしまった
─ 多方面でご活躍中の田中さんですが、現在手がけられているお仕事内容から教えてください。
田中(以下、T):まず、僕が代表として運営している「カメレオン・レーベル」の仕事があります。これは、いわゆるインディーズ・レーベルで、僕が一緒にやりたいと思うアーティストの作品を制作するという、ある意味で自分の好きな音楽を作っていこうというものです。それと並行して、他レーベルのアーティストさんや「クリエイティブ・オフィス・キュー(以下、オフィス・キュー)」さんなどからの依頼を受けての音楽制作を行っています。

─ 田中さんは、作曲からレコーディング、ミックス、さらにプロデュースと、音楽制作に関するすべての業務に携わっていらっしゃいますよね。
T:カメレオン・レーベルに関しては、所属アーティストが全国ツアーする際の運転手までやってますよ(笑)。僕はダブ的な音作りが好きで、自分がプロデュースした作品にそういうエフェクティブな音を入れると、それをライブで再現するために、車に卓(コンソール)を積み込んでダブミックスをやったり......。自分で自分の首を絞めてますよね(笑)。
─ もう1つの大きな柱であるオフィス・キュー関連プロジェクトのお仕事を始められたきっかけは?
T:鈴井貴之さんや大泉洋さん、安田顕さんといったオフィス・キュー所属タレントさんが出演していた「鈴井の巣」という、北海道の深夜バラエティ番組があったんですが、その番組内の企画で"大泉バンド"が結成されまして、その音楽制作を担当したのが最初ですね。実は当時、僕は大泉さんのことをまったく知らなかったんです。その頃、大泉さんはすでに巷では有名だったんですが、僕はスタジオにこもって音楽を作ってましたから、全然テレビを見てなかったんです(笑)。
─ 「鈴井の巣」や、のちの「ドラバラ」シリーズがきっかけで、田中さんのことを知った人も多いでしょうから、結果的には大きな転機となったわけですね。
T:ただ、僕自身は裏方に徹したいと思っていたので、「テレビには絶対映らない」、「名前も本名ではなく」という条件で、仕事を引き受けたんですよ。自分のレーベルでは結構マニアックな音楽をやっていたこともありましたし、それに、バンドの連中にはいつも偉そうなこと言ってるのに、当の本人は全然違うことやってんのかよって思われるのが、当時はすごく嫌だったんですね。それで、オフィス・キューさんの仕事では、大泉さんがつけてくれた名前、「ター・ナー・カー」という名義を使っているんです。でも、そんな約束はものの見事に破られまして、いざ放送されたら、思いっ切り自分がテレビに映っていて(笑)。しかも、それを知らなかったのは僕だけで、番組が放送された次の日には知人からガンガン電話がかっかってきました(笑)。
ところが、「ター・ナー・カー」として有名になっちゃったことで、かえって音楽業界の人脈が広がったんですよ。プロモーションで、東京のテレビ局にバンドを連れていっても、スタッフさんたちが「ター・ナー・カーが来てる!」ってことで、逆に声をかけてくれたり(笑)。北海道から来たと言うと、やはりオフィス・キューさんの話題になりますし、音楽関係者に大泉さんのファンも多いですからね。自分がメインでやってるレーベルよりも、オフィス・キューさんの音楽の方が人気があるというのは、何だか悔しいですけどね(笑)。でも多くの人に知ってもらえるきっかけになり、とても感謝してます。

─ その分、制作面では苦労も多いのでは?(笑)
T:去年だったかな、オフィス・キュー所属タレントさんと社員全員で歌入れするということがあったんです(CUE DREAM JAM-BOREE 2008用の楽曲「アルバム」)。総勢60人くらいですから、いっぺんに歌ってステレオで録るのが一番楽なんですが、全員のスケジュールを合わせるなんてことは到底不可能ですから、結局、全部バラバラで録っていったんです。歌だけで80トラックくらいありましたよ(笑)。しかも社員の皆さんは、歌に関してはやはり素人さんですから、ある程度の形に仕上げるにはピッチ補正が必要で、その作業を1日でやらなきゃいけなくて......。あれは地獄でしたね(笑)。
─ 「雅楽戦隊ホワイトストーンズ」のメイキング映像で、大泉さんの鼻歌に田中さんがコードをつけて楽曲を完成させていく様子を拝見しました。クレイジー・キャッツの作曲を一手に引き受けていた萩原哲晶さんもそうでしたが、しっかりとした音楽的知識をお持ちのうえで、タレントさんが生み出すユニークなメロディを完成度の高い楽曲に仕上げて、しかもレコーディングやミキシングまで行われていることに、とても驚きました。
T:いや、でも大泉さんは音楽的な才能を持ってますよ、本当に。そもそも彼は、小さい頃に電子オルガンをやっていたそうで、絶対音感があるんです。だから、無伴奏で好きなメロディを歌わせて、それをそのままDAWソフトに取り込んでも、ピッチ的にほとんど狂いがないんです。しかも、転調してるようなメロディも平気で書いてきますからね。すごいですよ。それとはまったく逆に、音楽がかなり苦手なタレントさんもいるわけですが(笑)、そんなことおかまいなしに、番組の中で作曲の命令が下されるわけですよ。そうすると、いわゆる音楽的には「?」なフレーズが来たりもするんですが、そこから楽曲に仕上げていくっていう作業も、それはそれでかなり面白いんですよ(笑)。
─ (笑)。そういう意味では、9月にリリースされるオフィス・キューさんのベスト・アルバム『OFFICE CUE THANK YOU BEST』は、田中さんの作品集的な色合いも強いのではないでしょうか?
T:新録は1曲だけですが、オフィス・キューさんの作品はスタッフの下川(佳代)も制作を行っていて、2人合わせると全楽曲の90%くらいの制作に関わっていますね。自分のレーベルでは、音楽的にやりたいこと、こだわりたいことがあって、それをバンドの音楽にどう混ぜていくのかということをテーマにしているんですが、オフィス・キューさんの仕事はまったく違っていて、僕がどんな音楽を作りたいのかということには一切関係なしで、タレントさんの好き勝手なお遊びに、お付き合いさせていただいているわけです。普通は考えられないようなリクエストも平気で来ますから(笑)。でも、「今回はそう来たか!!」とか「うそ!! それ、あり?」みたいなことも含めて、十分に楽しませてもらっています。






