V-Synth GTのバイオリンの音を聴いた時に、
思わず絶叫してしまった(佐々木)
─ 映画音楽を制作する場合は、いつもはどのような意識で曲作りを進めていくのですか?
C:映像に合わせて音楽を作る際は、佐々木さんが全体的なプロデュースをやってくださるんです。例えば、アニメーションで「女の子が2人歩いている、その時の気持ちで曲を作って下さい」というオーダーが監督さんから来た場合、じゃあ歩いている道はどこなのか? 建物の中なのか外なのか? 時間は朝なのか昼なのか? そういう部分まで佐々木さんが考えて、トータルでサウンドをまとめていくんです。
S:細かいことを言ったら、それこそリバーブの質感や深さだとか、そういう要素まで緻密に決めていきます。「THE 金鶴」の場合、特に映画やアニメーションの仕事では「登場人物の気持ちを音楽にしてください」というオファーが多いんですよ。これが例えば、「闘いに勝った」だとか「誰かをやっつけた」というような場面であれば、それこそ極端な話、映像を見ないでパッパッとBGM的に音楽を作ってしまう人もいるでしょう。でも、主人公の気持ちを音楽で表現しようとすると、それこそバリエーションが40種類くらいできあがって、それでもまだ違うという要求をしてくるような監督さんと、仕事をする機会が多かったんです。僕らとしても、そこまで努力して作った作品ばかりですから、今回の作品は、やはり1枚のアルバムとして聴いてもらいたいという想いは強いですね。
─ アルバムには、結成初期の作品「いとしの配偶者のテーマ(1985)」から、今年に書き下ろされた最新オリジナル曲まで、22曲収録されていますが、過去の作品は再録したのですか?
C:基本的には録り直していますし、テンポや曲のサイズまで変えたものもあります。
─ それはどうしてですか?
C:映画音楽を作る際は、まず最初に映像があって、それに合わせてテンポや構成を決めていくわけですが、純粋に"音楽"として考えると、「本当は、このテンポとサイズで作りたかった」という作品もあるんです。そういう曲について、今回アレンジを直しました。
M:それに、わざとクリックを使わなかったり。今回のレコーディングでは、クリックを使わなかった曲が多いんです。
C:それぞれの映画作品や監督の意向で、このサイズに収めて欲しいということが当然あるわけですが、でも音楽だけで聴いた時に、少し落ち着きがなく感じてしまうような場合は、クリックを使わずに、心地よく感じるテンポ感で演奏したりしました。あとは、やはり当時使っていた楽器と今のシンセは音源のクオリティがまったく違いますから、今回、V-Synth GTで弾き直すのであれば、V-Synth GTの音色を聴きながら、それを活かすようにフレーズやアレンジ自体を変えていくこともありました。
M:「THE 金鶴」にとって、ClaraはV-Synth GTの弾き手として、もうなくてはならない存在になっているんです。AP-Synthesis("演奏動作"や、アコースティック楽器の"ふるまい"をモデリングするというローランド独自の発想による最先端技術)という音源システムは、単に指が動くだけではなかなか表現しきれない要素が大きいんです。つまり、本当にその楽器の音が分かってないと、弾きこなせないんですよ。
─ 具体的には、それはどういうことなのでしょうか?
M:いくらピアノが弾けるからと言って、僕がV-Synth GTでバイオリンの音色を鳴らしても、やっぱり本物のバイオリンには聴こえないんですよ。でも、Claraは実際にバイオリンが弾けるので、「この音程からこの音程に移ると、弾く弦が変わる」とか「どのくらい音を伸ばすとビブラートがかかる/かからなくなってくる」ということが理解できているわけです。ですから、V-Synth GTを弾いても、生のバイオリンと同じ演奏表現ができるわけです。今回のレコーディングでも、そういう細かい要素は曲によってすごく研究してましたね。
─ Claraさんご自身は、V-Synth GTのAP-Synthesisを最初に体験した時は、どのような印象を持ちましたか?
C:シンセでこんなに素晴らしい音が出せて、演奏表現ができるようになったんだと、すごく感動しました。今回のアルバムに収録されなかった作品でも、ぜひAP-Synthesisを使って、V-Synth GTのバイオリンの音色で弾き直してみたいと思う作品がたくさんあります。しかも、鍵盤のコントロールだけではなく、ペダルを併用したり、トレモロやピチカート奏法が行えるボタン(ピッチベンダーの上の用意された[S1]と[S2]ボタン)などのリアルタイム性は、大きな魅力だと思います。打ち込みではなく、演奏しながらリアルタイムに表情を付けられることは、とても素晴らしいことだと感じています。
M:僕は昔から、バイオリンが好きなんですよ。でもバイオリニストって、基本的にピアノに合わせるのではなくて、自分にピアノを合わせてもらう感覚じゃないですか。だから、僕らがバイオリニストを呼んで録音したくても「すみませんが、このピアノに合わせてください」と言うと「えっ!?」ってことになる(笑)。でも僕としては、僕の作った曲、僕の演奏に合わせて欲しいわけです。Claraは、そういう部分まで合わせてくれるので、僕らにとってV-Synth GTは、ものすごく役に立つ楽器なんです。
S:そういう意味でも、最新のデジタル楽器は本当に素晴らしいと思います。最初にV-Synth GTのバイオリンの音を聴いた時に、いい歳して、思わず絶叫してしまいましたから(笑)。このアルバムの冒頭(「いとしの配偶者のテーマ(1985)」)で、いきなり大太鼓が鳴るんです。当時、本当は生楽器で録音したかったんですが、いろんな制約で実現できずに、なんとかアナログ・シンセでごまかして"大太鼓風"の音を作ったんです。それが今なら、Fantom-Gに内蔵されている音色を使えば、限りなく生楽器に近い状態の音を、しかも手軽にレコーディングできる。これは、とても嬉しかったですね。この曲を作った85年頃に、まさに夢見ていた機能が、Fantom-GやV-Synth GTですべて実現されている。曲を作っていた25年前に、僕の頭の中でイメージしていた音が、これらの最新のシンセでようやく具現化することができました。これは、とても感慨深く思っています。





