一番心がけていることは、
一緒に仕事をするアーティストとの相互理解
─ 武部さんは、ご自身の作品はもちろん、たくさんのアーティストのアレンジやプロデュース、さらにはコンサートの音楽監督と、あらゆる角度から音楽制作に関わっていらっしゃいますが、30年という長いキャリアの間で、常に第一線でご活躍してきた秘訣はどこにあるとお考えですか?
武部(以下、T):音楽を作っている人、同業者って、すごくたくさんいるじゃないですか。ブームを作った人もいますし、消えていってしまった人も一杯いる。そんな中で、僕が長く音楽活動を続けてこられたのは、いわゆる"ブームになる音楽"を作ってこなかったからだと思っています。あくまでも、自分がやりたいと思える音楽を追求してきたつもりです。やっぱり、奇をてらった音楽作りだとか、売れるために何かを犠牲にすると、長く続けられないと思うんですね。
そのためにも、僕がプロデュースをはじめとする普段の仕事を行ううえで、一番心がけていることがあります。それは、一緒に仕事をする人、アーティストとの相互理解です。お互いに音楽性を認め合ったところで、相手と一緒になって、どういうものを作っていけるか。それについて、きちんとディスカッションしたうえで、作品を作り上げていくということです。だから、僕が一方的に自分のやりたいことを押し付けるようなことは、まずありません。それは、どんな仕事でもそうであって、例えばプロデュース・ワークをするうえでも、僕が曲を書いて「はい、これをやりなさい」みたいなことではないんです。じゃあ、どういうものを作っていったらいいのかということを、ちゃんとディスカッションして、相手と同じゴールを見定めてから走り出すわけです。そうすることで、アーティストも、もちろん僕もストレスなく制作が行えるんです。
─ 今のお話を聞いて、武部さんが長年に渡って松任谷由実さんのコンサートでの音楽監督を務められたり、一青窈さんの一連の作品をプロデュースしたりと、チーム的なプロジェクトを数多く手がけられている理由が分かるような気がします。

T:ユーミン(松任谷由実)の場合は、そもそも松任谷(正隆)さんがプロデューサーじゃないですか。松任谷さんも、音楽に対する造詣がすごく深くて、強いこだわりを持った人だから、ユーミンの音楽を本当の意味で理解してくれてる人じゃないと、きっと一緒にやりたくないだろうと思うんです。そういった意味で、僕は彼女の音楽を、楽曲の構造から詞の作り方、サウンドの構築の仕方まで、松任谷夫妻以外で一番理解しているという自負があります。彼女の作る音楽の世界が、一体どういうものなのか。それはサウンドだけの話しではなく、詞に至るところまで、すべてを理解していると思っています。だからこそ、長年一緒に"チーム"としてやってこれたんだと思います。一青さんの場合も、同じですね。彼女は歌詞を書くシンガーですから、僕が曲を作って、彼女が歌詞を書くというスタイルで、「2人で1人のシンガー・ソングライター」をやってるようなつもりで、これまで作品を作ってきました。
─ プロデューサーと言えども、ある意味ではアーティストと対等な目線で、一緒に音楽を作り上げていくという感覚ですか?
T:もちろん、そうです。だから僕が曲を作っても、その曲からイメージが湧かなければ、彼女は歌詞を書きませんし、僕も無理に書けとは言いません。タイアップのような形で作品を作る場合でも、僕は数パターンの曲を作るんですよ。その中から、彼女が一番イメージの湧いた曲に歌詞をつけていくんです。これまでずっとそういうスタイルで続けてきて、彼女に何か無理を強いるようなことはしてきませんでした。それは一青さんに関わらず、誰と仕事をした場合でも、同じなんです。
─ プロデュースやアレンジ、ご自身の作品と、すべての作品が、武部さんの中では同一線上にあるわけですね。
T:そう、同じ線上です。テレビの仕事でも、映画の音楽を作る仕事でも、すべてにおいて同じなんです。自分1人の自己満足に終わるのではなく、いかに相手とうまく理解し合えて、それを最終的に聴く人の心に届けられるか、感動してもらえるかということを、常に考えています。独りよがりな音楽は、僕は作りたくないんですよ。そういう意味では、僕は音楽に対してまったくストイックではないんです。自分の頭の中のイメージをとことん追求して、それを形にするというというタイプとは、ちょっと違いますね。
─ 武部さんは、ストイックに音楽を追求されるタイプの方なのかと思っていました。
T:いえ、僕はまったく芸術家肌ではないですし、どちらかというと「プロであること」という点を意識しながら仕事をしているタイプかもしれないです。そう、「仕事をしている」という感覚は、とても強く持っています。だからこそ、これだけ長く続けてこられたのかもしれませんね。




