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SYNTHESIZER V-Synth GT 第4回 V-Synth GT サウンド・メイク術 その3 ~V-Synth GTの目玉機能!AP-Synthesisの凄さを体感しよう~ 齋藤久師

皆様こんにちは! 齋藤久師です。今月は、いよいよV-Synth GT最大の目玉であり、世界的に類を見ない、まったく新しいシンセサイズ方式と言える「AP-Synthesis」を取り上げてみたいと思います。AP-Synthesisの「AP」とは「Articulative Phrase」の略称であり、"演奏動作"や、アコースティック楽器の"ふるまい"をモデリングするというローランド独自の最先端技術です。このAP-Synthesisにより、V-Synth GTはアコースティック楽器固有の「奏法に対するサウンドの変化」のモデリングを実現し、従来のシンセサイザーとは比べものにならないほどの、豊かで新しい表現力を手に入れたのです。

さらに注目したいのは、V-Synth GTが、シンセサイザーの真骨頂とも言える無限の音作りを可能にしている点です。つまり、アコースティック楽器のサウンドをリアルに再現するだけにとどまらず、「ある楽器固有の表現や動作を、全く別の音色で行う」という斬新な発想による音作りも実現しているのです。例えば、基本となる音色には西洋楽器のフルートを選びながら、中国の伝統楽器であるアーフ(二胡)の奏法で演奏させたり、さらには、アナログ・シンセサイザー風のノコギリ波の音色を使って、サックスのように演奏させることができるなど、AP-Synthesisは、この世に存在しえない音色と演奏表現の合成が行える画期的なシンセサイズ・エンジンなのです。

V-Synth GT

▲画像1:ローランド・シンセサイザーのトップ・モデル、V-Synth GT

AP-Synthesisが可能にする新次元の演奏表現力

AP-Synthesisが搭載されていない、これまでのPCM音源方式のシンセサイザーは、基本的にはアコースティック楽器のサンプリング波形を再生することで、音を鳴らしていました。実際には、1つの音色でもベロシティー(演奏の強弱)や音域(音程)によって、複数の波形を使い分けて再生することで、できるだけアコースティック楽器に近い音色を鳴らすように工夫されているのですが、結局は、いくつかの条件によって割り当てられた波形を"呼び出す"だけで、プレイヤーが演奏に感情移入するには限界がありました。そんなこれまでの音源方式に対してAP-Synthesisは、単なる波形の再生とは比べものにならないほどの高い次元で奏法をモデリングしているため、微妙で繊細なニュアンスから大胆な音色の変化まで、プレイヤーの感情を豊かに、そして忠実に表現できるのです。

AP-Synthesisでは、アコースティック楽器固有の反応や動作(具体的には、トリル、ポルタメント、ビブラート、ダイナミクス、息の吹き加減、弦を引っ掻いた時のスクレイプ・ノイズ、フィンガー・ノイズ、グロウル・センスなど)が緻密にモデリングされています。これまで、その楽器の特性を知っている人(つまり、弾きこなせる人)だけが表現可能であった「楽器固有の演奏表現や演奏動作」が、特別な知識や技術を必要とせずに、V-Synth GTの鍵盤に感情を込めて演奏するだけで、誰でも表現できるようになったのです。

V-Synth GTに搭載されているフレーズ・モデル(奏法)は、リードに適し、なおかつアコースティック楽器の中でも特徴のある「サックス」、「フルート」、「バイオリン」、「アーフ(二胡)」、そして「マルチ・フェード」の5つが用意されています。そして、音源となる基本のソース・ウェーブフォーム(音色波形)は、サックス、トランペットなどといったアコースティック楽器だけでなく、ノコギリ波、矩形波などのアナログ・シンセサイザーの波形なども含めた全38種類から選択可能です。これらを自由な発想で組み合わせることで、音作りの可能性は無限に広がるのです。

それでは早速、AP-Synthesisによる音作りを実践してみましょう!

AP-Synthesisサウンドを体感しよう!

●V-Synth GTのリアルな演奏表現力

まず、基本的なシンセサイザー部分を網羅しながらAP-Synthesisを使用できるストラクチャー・タイプ1を選びます(画像2)。そして、画面下に並んだタブの中から[AP Syn]を選び、AP-Synthesisのエディット画面を表示させましょう(画像3)。

ストラクチャーの選択画面

▲画像2:ストラクチャーの選択画面。V-Synth GTの音源は、それぞれの要素(セクション)の接続方法を変更することができる。そのセクションの接続方法をストラクチャーと呼び、5種類のタイプから選ぶことができる。

AP-Synthesisのエディット画面

▲画像3:AP-Synthesisのエディット画面。例えば、「シンセサイザーの音をバイオリンの奏法で演奏する」という場合、ソース・ウェーブにシンセ波形、フレーズ・モデルでバイオリンを選択する。

この画面のソース・ウェーブ(Source Waveform)セクションで、基本となる音色を38種類の波形の中から選び、下段のフレーズ・モデル(Phrase Model)セクションで、使用したい奏法をチョイスします。

まずは、ソース・ウェーブ/フレーズ・モデルともに、バイオリンを選んでみました。いわゆる、もっとも普通にバイオリン・サウンドを演奏できる組み合わせです。では、そのサウンドを聴いてみましょう。

鍵盤を弾く際の強弱やアフター・タッチの使い方だけでも、これほどまでに繊細でエモーショナルな演奏ができるのです。通常のPCMシンセサイザーの演奏とは一線を画した、V-Synth GTのリアリティのある演奏表現力がお分かりいただけたでしょうか。

●演奏にアクセントを加えるS1/S2ボタン

ここで、AP-Synthesisのさらなる演奏表現の多彩さを体験していただきましょう。

ピッチベンダーの上の用意された[S1]と[S2]ボタンには、それぞれトリル奏法とピチカート奏法が設定されており、ボタンを押すだけで、演奏にこれらの奏法を加えることが可能なのです。

S1/S2ボタン

▲画像4:S1/S2ボタン。初期値では、AP-Synthesisでバイオリン音色にトレモロ(S1)とピチカート(S2)をかけられるように設定されている。もちろん、他の奏法をアサイン(割り当てる)ことも可能だ。

▲S1ボタンでトリル奏法をかけたサンプル

▲S2ボタンでピチカート奏法をかけたサンプル

AP-Synthesisによるトリル奏法は、単なる鍵盤の連打によるトリガリングや、LFOを使って表現したトレモロとは比較にならないほど細かくてリアルさがあります。まるで本当に弦を擦っているかのように、バイオリンのサウンドを鳴らしてくれるのです。ピチカートに関しても、胴の共鳴による余韻まで、本物のバイオリンでの演奏をモデリングしています。このことは、サンプル音を聴いていただければ、すぐに分かりますよね。

 
・ワンポイント

S1/2ボタンは、ボタンを押した時の動作を2タイプ選べます。詳しくは、バックナンバー『第1回:V-Synth GT サウンド・メイク術 その1』をご覧ください。

 

音色と奏法の自由な組み合わせで無限に広がる表現力

●究極のリアリティを持ったフレーズ・モデル

V-Synth GTのAP-Synthesisによるリアルな演奏表現力を実感していただきました。次は、もっともシンセサイザーらしい音色の1つである「矩形波(Square Wave)」をソース・ウェーブに選択して、先ほどと同じバイオリンの奏法で演奏してみましょう。

AP-Synthesisのエディット画面

▲画像5:AP-Synthesisのエディット画面。まさに「シンセサイザーの音(Square Wave)をバイオリンの奏法で演奏する」というセッティングだ。

人工的なアナログ・モデリング波形である「Square Wave」が、人間的なバイオリン奏法によって、とても生き生きとした表情豊かなフレーズに生まれ変わるのが分かりますね。

V-Synth GTに用意された5つのフレーズ・モデルには、それぞれに付けられた名称の通り、バイオリンやフルートなど各楽器を究極まで解析し、その特性がモデリングされているのです。

●フレーズ・モデルをカスタマイズしよう

AP-Synthesisエディット画面の左に並んだタブの中から、[Modify]及び[Adovanced]タブを選ぶことで、さらに細かい奏法表現をユーザー自身が自由に設定することが可能です。ここで表示されるパラメーターを使いこなすことで、オリジナルの奏法までをもクリエイトすることができるわけです。

AP-SynthesisのModify画面

▲画像6:フレーズ・モデルにサックスを選んだ場合のAP-SynthesisのModify画面。サックスの奏法では、アタック・タイムやリリース・タイムの他にも、ポルタメントやブレス・ノイズの量、そして人間が吹くことで生じる不安定さを演出するナチュラル・フィール、さらにはビブラートの強さや速さ、そして実際にビブラートがかかるまでの時間的な遅れなどまで、実に微細にエディットしていくことができる。

AP-SynthesisのAdvanced画面

▲画像7:フレーズ・モデルにサックスを選んだ場合のAP-SynthesisのAdvanced画面。音程のしゃくり具合や強く吹いた時のちょっとした音の歪み、そしてアンビエンス成分などのパラメーターが並んでおり、これらのパラメーターも自由自在にエディット可能だ。

ここで設定した各パラメーターは、D ビーム・コントローラーやタイム・トリップ・パッドなど、任意のコントローラーに自由にアサインしてコントロールすることが可能です。これらのコントローラーを利用することで、演奏しながらリアルタイムに奏法そのものを変化させるといった、さらに大胆な表現を実現できるのです。

Control1の設定画面

▲画像8:Control1の設定画面。ダイナミクス1/2、フェード1/2、ポルタメント、ビブラートを各コントローラーにアサインできる(フレーズ・モデルによって動作が異なる場合があります)。

Control2の設定画面

▲画像9:Control2の設定画面。トレモロ、ピチカート、モノ/ポリ、ミックス・レベル、パンを各コントローラーにアサインできる(フレーズ・モデルによって動作が異なる場合があります)。

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