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SYNTHESIZER V-Synth GT 第5回 V-Synth GT サウンド・メイク術 その5 ~ボーカル・デザイナーを使いこなそう!~ 齋藤久師

皆さんこんにちは! 齋藤久師です。今月はシンセ好きならたまらない「声」のシンセサイズに挑戦してみましょう!

V-Synth GTが登場した時、やはり目新しい機能としてデュアル・コア仕様やAP-Synthesisが大きく取り上げられておりましたが、実はそれに勝るとも劣らないほど強いインパクトを放っていた機能が、プリ・インストールされた「ボーカル・デザイナー」です! ピッチ(音の高さ)を鍵盤でコントロールし、それ以外の要素をマイクの声で表現するというボーカル・デザイナーの魅力をたっぷりと紹介しましょう。

"歌うように演奏する" ~ボーカル・デザイナー

古くはクラフトワーク、アース・ウィンド&ファイアー、ハービー・ハンコック、YMOによって脚光を浴び、そして近年ではアンダー・ワールドやダフト・パンクなどの世界のトップ・アーティストが全面的に使用したことで再び注目を集めているボコーダー・サウンド。これはひと言で説明すると、"キャリア"である電子波形と、肉声などのオーディオ信号を合成することで、ロボットのような機械的な歌声や、たった1人でクワイヤなどの多声コーラスを奏でられる装置なのです。

しかし、70年代後半に登場した初期のボコーダーは音(声)の明瞭度が低く、誰が使っても"ロボット"っぽい不自然な音声しか鳴らせませんでした(それはそれで、効果的に使うことで非常に面白いサウンドなのですが)。それから数々の研究を重ね、ローランドが打ち出した最新技術によるヒューマン・ボーカル・モデリング・テクノロジー「ボーカル・デザイナー」は、微細なフォルマントの解析と、自由に選べるキャリアなどによって、それまでのボコーダーの概念を超越した、人間の肉声に近いとてもリアルなボーカル・サウンドを実現したのです。

VP-330

▲写真2:1979年に発売されたVocoder Plus VP-330。YMOの名曲「TECHNOPOLIS」の"ト・キ・オー"のフレーズは、時代を超えてあまりにも有名だ。

VP-550

▲写真3:ボコーダーを超えたボーカル・デザイナー技術と、ミュージシャンのために設計されたシンプルなインターフェースを融合させて2006年に誕生したボーカル&アンサンブル・キーボードVP-550。

従来のボコーダーは、プリセットのキャリアとマイクから入力する音声の合成が一般的でしたが、V-Synth GTに搭載されたボーカル・デザイナーは、非常に自由度の高いキャリアの選択が可能です。例えば、V-Synth GTを普通にシンセサイザーとして使う場合と同様に、2つのOSCに好みの波形を呼び出すことで、様々な組み合わせのキャリアを作り出すことができるのです。しかも、そのOSCは「Analog OSC(アナログ・オシレーター)」、「PCM OSC(PCMオシレーター)」、そしてリア・パネルのインプットから入力された信号をオシレーターとして使える「External In(外部入力オシレーター)」を利用できるので、実に様々なタイプのキャリアをチョイス可能です。

マイク・ジャックとインプット・ジャック

▲写真4:リア・パネルに装備されたマイク・ジャックとインプット・ジャック。 マイク・ジャックには、ファンタム電源供給可能なXLRコンボ・ジャックが採用 されており、ダイナミック・マイクだけでなくコンデンサー・マイクも使用でき るなど、幅広い種類のマイクに対応している。

このボーカル・デザイナーのリアルな音色合成を成功させている最も重要な鍵が、何と言っても"フォルマント"のモデリングでしょう。女性、男性、またはそれぞれの唱法ごとに解析されたフォルマント設定を選ぶことで、入力された音声の質に左右されることなく、様々なキャラクターのフォルマント特性に変換される優れものです。

フォルマント・タイプの設定画面

▲画像5:フォルマント・タイプの設定画面。フォルマントを変換しない「フラット」をはじめ、「ソプラノ」、「アルト1」、「アルト2」、「バリトン」、「バス」、そして金属的なトークボックス系サウンドを再現できる「トークボックス(Mono時のみ)」を選択できる。

キーワード

・ボコーダー
1939年に物理学者のH.Dudley氏によって開発された音声通信の圧縮技術を元に、人間の声でメロディやハーモニーが演奏できる楽器「ボコーダー」が誕生した。

・フォルマント
声を発する際に、咽の形や骨格、口の動きなどで生じるさまざまな共振のこと。音程が同じでも、フォルマントの差によって、人それぞれで歌声が違って聴こえる。

・キャリア
人間の「声帯」にあたる部分で、鍵盤で弾いた音階にしたがってサウンドの土台となる信号(音色とピッチ)を生成する。V-Synth GTではOSC、COSM、MOD、TVAの組み合わせによってキャリアが構成される。

ボーカル・デザイナーのリアルな"声"を聴いてみよう!

まずは、プリセットとして用意されたリアルなボーカル・サウンドを聴いてみましょう。
『La Femme GT』と名付けられたこのプリセットは、キャリアにPCM OSCの「VD-Female1」という、女性の声に特化したサンプルが選択されています。そしてフォルマント・タイプには、女性の写真の「Alto1」がチョイスされています。このプリセットを呼び出し、キーボードを「ドレミファソラシド」と弾きながら、マイクでも同じように歌ってみました。ちなみに私は男ですが(笑)、このように自分の声を簡単に女性の声質に変化させることができるのです。

プリセット・パッチ『La Femme GT』

▲画像6:プリセット・パッチ『La Femme GT』の画面。

フォルマント・タイプ「Alto1」

▲画像7:フォルマント・タイプは「アルト1」をセレクト。男性・女性に関わらず、女性のアルトの声質で歌う(演奏する)ことができる。

鍵盤を押さえ、マイクに向かって抑揚をつけて歌えば、フォルマントの解析により、女性らしいキー・レンジで人間的な抑揚を活かしたボーカルを奏でられるのです。そこで次に、和音を演奏しながら、さらに激しい抑揚をつけて歌ってみました。

このように、V-Synth GTのボーカル・デザイナーを使えば、とても自然な響きの女性的コーラスを手軽に演奏でき、しかもダイナミクスの幅も大きい明瞭な合唱を自由に演奏できるということがお分かりいただけると思います。この『La Femme GT』というプリセットの他にも、PCM化された男女のキャリアがいくつも用意されているので、様々な場面で多くのキャラクターを使い分けたコーラスも思いのままに実現できるのです。

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