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第32回:特別講座:ローランド・シンセの歩み~歴史から探るシンセの魅力

みなさん、新年あけましておめでとうございます! 齋藤久師です。本年もよろしくお願いいたします。

さて、記念すべき2010年最初のmnavi Academy Synthesizerでは、シンセサイザーの歴史を改めて振り返りながら、楽器としての魅力や、筆者のシンセサイザーに対する想いなどを語ってみたいと思います。

▲写真1:さまざまな進化を経た現在のシンセサイザー(ローランド・シンセサイザー・ポータル・サイト)

世界を驚かせたSYSTEM-700の登場

現代のシンセサイザーには、実に多種多様なスタイルと音源方式が存在しています。しかも、技術の進歩とともに究極のコンパクト化が図られており、なおかつ、だれでも手軽に購入できるような低価格が実現されました。電池駆動&軽量化によって、いつでもどこでも演奏できるものや、ソフトウェア化によってシンセサイザーが携帯電話の中に取り込められるなど、世の中に登場した時代には到底考えられないほど進化したテクノロジーが、このシンセサイザーという楽器の中に凝縮されているのです。

▲写真2:軽量&コンパクトで電池駆動にも対応したシンセサイザー、JUNO-Di。

1960年代に「電圧制御」という方式によって誕生した初期のアナログ・シンセサイザーは、とても楽器とは思えないような巨大な姿から、電話交換機や大掛かりな放送用機器といったような存在感を持っていました(特にモジュラー・シンセサイザーは、通称"タンス"と呼ばれるほどでした)。シンセサイザーの巨匠、冨田勲さんが、当時、アメリカからモーグ・シンセサイザーを初めて個人輸入した際に、「これは楽器だ」という証明を得るために空港税関で1ヶ月もの間、足止めをくらって保管されていたという話はあまりに有名です。

そんなモジュラー・シンセサイザーは、巨大で無骨な外観とは相反し、1度にたった1音しか鳴らせないモノフォニック仕様であり、作った音色のメモリーなども行えませんでした。それでいて、価格は他の楽器とは桁違いに高く、今なら車が何台も買えるほど高価な物だったのです。

ローランドからも、それら海外製品をしのぐ素晴らしいモジュラー・シンセサイザーSYSTEM-700が発売されました(1976年)。これは、後に世界的ベストセラー・モデルとなるリズム・ボックスの名機TR-808(1980年)の音色を作り出す基礎となったのです。6ブロックに分割されたモジュールには、音源セクションだけでなく、アナログ・シーケンサー・セクションや多彩なエフェクト・セクションなど、高度な技術力によってその時代に考えられるすべてのアイデアを妥協することなく取り入れた、名実ともにモンスター・シンセサイザーと呼べる物でした。

▲写真3:SYSTEM-700。国産初の本格的フル・システム・シンセイサイザー。当時の価格は265万円で、NHKや英国BBCなど、世界中の放送局やスタジオに導入されました。

音楽シーンに革命を起こしたMC-8

翌年、より大きな衝撃を音楽界に与える出来事が起こります。それは「デジタル・シーケンサー」の出現です。

ローランドが1977年に発表したマイクロ・コンポーザーMC-8は、8つのアナログ・シンセサイザー音源を同時にコントロールできるマルチ・ティンバー・シーケンサーです。もちろん、今とは違って1パート1音色ではありましたが、「1オクターブ/1ボルト」という発音方式のアナログ・シンセサイザーであれば、メーカーを問わずに使用することができる"自動演奏マシン"であり、MC-8登場以降の音楽シーンに大革命を巻き起こしたのです。

MC-8は、海外ではジョルジオ・モロダーやクラフトワーク、そして日本ではYMOが使用し、人間では演奏不可能な高速フレーズを次々に生み出しました。ところが、このMC-8のプログラミング方法は非常に複雑であり(このMC-8のテン・キーを使って演奏データーを入力する様子から「打ち込み」という言葉が生まれたのです!)、しかも価格が120万円(当時)と高価であったため、この製品自体が一般に広まることはありませんでした。しかし、この後継機種として発売されたMC-4(1981年)では、プログラミングの簡素化が図られ、価格もMC-8の約3分の1とリーズナブルになったことから、一気に世界中のレコーディング・スタジオで使われるようになったのです。

現在使われている世界的電子楽器の共通規格「MIDI」が誕生するまでの間、ほとんどのシーケンス・フレーズは、このMC-8/MC-4で作られたと言っても過言ではないでしょう。

▲写真4:MC-8(左)とMC-4(右)。MC-8の登場によって、音符を数字化するという音楽の新しい可能性が生まれたのです。

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Profile

齋藤久師(さいとう ひさし)

齋藤久師(さいとう ひさし)

91年ビクターエンターテインメントより日本初のテクノユニット『ガルトデップ』でデビュー。ユニット休止後、さまざまなクラブ系ユニットに参加し海外でのディストリビュートも積極的に行う。1996年よりステージ衣装から機材などすべてを完璧に模したYMOの完全コピーバンド『Yセツ王』として活動。リアルタイムにYMOを体験した熱心な固定ファンのみならず、YMOのライブを見たことのない若いファンをも獲得している。チップチューンをフィーチャーしたユニット『8bit project』のメンバーとしても2枚のアルバムをリリース。そのほか雑誌などでのレビュー執筆と、多方面で活躍中。