サカナクションをはじめとする数多くの個性派&新鋭バンドのサウンド・メイキングを手がけるレコーディング&ミックス・エンジニア浦本雅史。昨年9月にリリースされ、各方面で絶賛されたサカナクションの5thアルバム『DocumentaLy』の制作秘話を披露してもらうと同時に、プロ仕様レコーダーR-26を実際のレコーディング・スタジオでチェックしてもらい、エンジニア目線で、その印象を語ってもらった。
サカナクションは、自分たちのやりたいことをやりつつ、幅広く理解してもらえる要素を取り入れるバランス感覚が素晴らしい
─ 浦本さんは、どのような経緯でエンジニアになろうと思われたのですか?
浦本:中学1年生くらいの頃に、母親が使っていたアコースティック・ギターを弾くようになって、音楽を始めました。その後、バンドを組んでライブをするようになると、PAという職業があることを知ったんです。だから、最初はPAになりたいと思ったんですよ。それで、高校卒業後に音楽専門学校のPA科に進学したんですが、週に1度のレコーディングの授業が面白くなって、2年生からレコーディング科に移りまして、そのままエンジニアの道に進みました。
─ エンジニアになりたての頃に、くるりさんのレコーディングを担当したそうですね。
浦本:当時働いていたスタジオに、くるりがレコーディングに来たんです。僕はくるりが好きだったので、「絶対やりたい!」って言って、アシスタントに付かせてもらいました。ちょうど『アンテナ(2004年)』というアルバムを作っている時で、僕の師匠であるエンジニア高山徹さんがミックスをしている最中に「ちょっと隣のスタジオで歌を録っておいて」と言われて、ボーカルを録音したのが最初でした。とにかく、ベースにしてもギターにしても、生音のよさに驚いたことを覚えてます。
─ 最近ではサカナクションの録音やミックスを担当されていますが、彼らの作品はいつ頃から手がけ始めたのですか?
浦本:『シンシロ(2009年)』からです。北海道からメンバーが上京して最初に作ったアルバムですね。もっと厳密に言うと、その前にデジタル配信のみでリリースされたライブ盤のミックスをしていて、そこからの付き合いになります。彼らの第一印象は、すごく曲がいいということ。それと、特に『NIGHT FISHING(2008年)』は、めちゃくちゃサウンドがタイトだと感じました。ただそれも、後から話を聞くと、いろんな事情で超デッドなスタジオしか使えなかったということがあったそうですが、それでもカッコいい音だなと思いました。

─ サカナクションの制作には、単なるエンジニアとしての役割を超えて、とても深く関わっていらっしゃると思いますが、最新作の『DocumentaLy(2011年)』は、どのようにして制作が行われたのですか?
浦本:このアルバムに関しては、(山口)一郎(Vo/Gt)くんがスタジオに曲を持って来て、「今日はこれ」ってみんなに聴かせるところから始まるスタイルでした。最初にあるのは、本当にメロディだけで、そこから全員で一緒になって肉付けしていくことが多かったですね。
─ 中でも「エンドレス」の歌詞は、70以上のバージョンが書かれたというほど、曲が完成するまで大変な時間を要したそうですが、それ以外の曲に関しては、本当にその瞬間を切り取る“ドキュメンタリー”だったわけですね。
浦本:そうです。「ドキュメント」という曲は、1日でアレンジも歌詞もできました。とにかく最初のメロディがいいので、普通にアレンジをすれば、普通に“いい曲”になってしまうんですよ。でも、そうならないように持っていくのが、彼らはとても上手だと感じています。自分たちのやりたいことをやりつつも、幅広く理解してもらえる要素を取り入れるバランス感覚、そこが非常に素晴らしいですね。あとライブに関しても、一般的にオケを流しながら演奏するバンドって、CD用に作ったトラックをそのまま使うことが多いですが、彼らはライブ用に自分たちでトラックを作り直すんですよ。CDとしてはいいんだけどライブだと盛り上がりに欠けるっていう部分は、レコーディング後に音色やアレンジを変えていて、そういう部分もとても上手いなぁと思っています。
─ 彼らのレコーディングでは、音を作り込んで録ることが多いのですか? それとも、出音をそのまま録るイメージですか?
浦本:そのまま録る感じです。基本的には、ドラムもほぼノー・コンプですし、EQはしますけど、そもそもEQってイコライズ、すなわち“イコールにするもの”ですから、音色作りのためではなく、あくまでも生音を補正する感覚で使います。ただ『kikUUiki(2010年)』のレコーディングでは、普通に録りつつ、曲の雰囲気を掴みやすいように徹底的に作り込んだ音も同時に録りました。そうやっていろいろと試した結果、最近では生音をそのまま録っておいて、後から音色を作ることが多くなりました。
─ その分ミックス段階では、かなり試行錯誤を重ねて、さまざまなアプローチで音作りが行われているわけですよね。
浦本:それはもう、すごい現場ですよ。僕が知っている中では、一番時間を費やすバンドです(笑)。確か、「目が明く藍色」か「アイデンティティ」で、僕がDAWを使うようになって、初めて「これ以上トラックが作れません」という警告が出ました(笑)。正確には覚えていませんが、1曲で300トラック以上あったと思います。とにかく、思い付いたアイデアはすべて試すので、アウト・テイクの数がものすごいんですよ。しかも、そのトラックがミックスの最終段階で復活することもあるので、最後まで消せないですし、ドラムに関しても、A/B/Cメロと構成ごとにトラックを分けるんです。他のパートもすべてそうですし、シンセもたくさん入っていて、コーラス・パートだけでも60トラックくらいあったり。そうやって、あらゆることをやり尽くしたうえで、最終的に最初に思い描いた曲のイメージに戻っていく、たどり着く、というパターンが多いかもしれません。

▲サカナクションのメンバー。右上から反時計回りに、岩寺基晴(Gt)、草刈愛美(Bs)、山口一郎(Vo/Gt)、江島啓一(Dr)、岡崎英美(Key)。
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内蔵マイクと外部入力で最大6チャンネル同時録音可能なプロ仕様のポータブル・レコーダー
指向性と無指向性の2種類の内蔵マイクとXLR/TRS外部端子を装備。大型タッチパネル・ディスプレイで直感的な操作を実現し、USBオーディオ/ストレージにも対応した24bit/96kHzレコーダーR-26。
浦本雅史
バーニッシュストーン・スタジオでエンジニアのキャリアをスタートさせ、その後、青葉台スタジオを経て、現在はフリーランスとして活躍中。これまでに、くるり、フジファブリック、GO!GO!7188、サクラメリーメンなどのレコーディングやミックスを手がける。近年はサカナクションのレコーディング/ミックスをすべて手がけ、最新作『DocumentaLy』は10万枚を超えるセールスを記録した。3月28日にリリースされるライブDVD『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy -LIVE at MAKUHARI MESSE-』のミックスも担当している。また、エンジニアリングに加えプロデュースも行ったplentyのアルバム『plenty』が2月15日に発売される。
CD

サカナクション
『DocumentaLy』
初回限定盤A(CD+DVD)
VIZL-437 ¥3,500

plenty
『plenty』
(2012年2月15日発売)
XQFQ-1206 ¥2,500
DVD

サカナクション
『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy -LIVE at MAKUHARI MESSE-』
(2012年3月28日発売)
初回限定盤
¥4800(DVD)/¥5800(Blu-ray)
Vol.56:エンジニア浦本雅史が6チャンネル・ポータブル・レコーダーR-26のサウンドと操作性をスタジオで実践チェック
Vol.55:ジャズ・ピアニスト西山瞳がデジタルピアノLX-15の自然でリアルな響きを奏でる
Vol.54:女性シンガー・ソングライターNIKIIEがデジタル・ピアノFP-4Fのサウンドに触れる
Vol.53:ビート・マエストロRIOW ARAIがSPD-SXの可能性を探る
Vol.52:JIM(THE BAWDIES)がボスの最新コンパクト2モデルを弾きまくる!
Vol.51:オルガニスト小島弥寧子がクラシック・オルガンC-200の響きと鍵盤タッチを体感
Vol.50:カミナリグモがボスMICRO BR BR-80の魅力を語る
Vol.49:エンジニア間瀬哲史がQUAD-CAPTUREのクオリティを実践チェック
Vol.48:コンピューター・ミュージック講師・近藤隆史が教育者の視点でGAIA SYNTHESIZER SOUND DESIGNER SD-SH01をチェック
Vol.47:伝説のシンセシスト、松武秀樹(Logic System)&清水信之がJUPITER-80と初対面!









