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> Vol.56:エンジニア浦本雅史が6チャンネル・ポータブル・レコーダーR-26のサウンドと操作性をスタジオで実践チェック

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「R-26ってこんなに音がいいんだ」と驚いた。空間を録りたいなら指向性、楽器自体を録るなら無指向性マイクと使い分けるといい

─ ミックス・テクニックと言えば、このアルバムではロック・バンドの作品としてはかなり大胆にサイドチェイン・コンプ(注:バス・ドラムの発音をきっかけに、コンプで他パートのボリュームをコントロールするミックス手法で、リズムに合わせて曲全体がうねるような効果を加えられる。「『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』」のイントロなどで、その効果を聴くことができる。)が使われていますよね。

浦本:強調している部分と、薄くかけている部分がありますが、一郎くんのアイデアによるもので、ほとんどの曲でサイドチェイン・コンプを使いました。リズムを分かりやすく強調したいという意図や、クラブに行った時のPAスピーカーが揺れる感じを出したいという狙いもあったと思います。あと、「モノクロトーキョー」でボーカルを歪ませているのも、ミックス時に一郎くんから出たアイデアです。ただそれも、ミックスの最終段階で、最後のサビだけは歪ませるのをやめて、ディレイで飛ばすように変えました。

─ 曲作りに止まらず、録音、そしてミックスと、サカナクションの音楽へのこだわりは相当なものだと感じますが、エンジニア的な目線で、浦本さんはサカナクションのすごさはどこにあると思いますか?

浦本:たくさんあり過ぎて何を挙げればいいのか悩みますが(笑)、すべてにおいて「これでいいや」という妥協がないことです。あと、全員がすべてのパートに対して意見を言うこと。一郎くんが監督的な存在ではあるんですけど、基本的にはメンバー全員が、そういう意識で音楽を作っています。サウンド面で言うと、低音の使い方かな。よく車でCDを聴くと、物が揺れたりするじゃないですか。そういう低音成分にはかなりこだわりました。そういった物体に影響を及ぼす低音が入っていると、聴く環境、つまりイヤホンだったり、ラジカセだったり、車だったりで、音楽の印象が変わるんです。それによっていつまでも新しい感覚で聴いてもらえるという点は、かなり大切に考えていると思います。

─ 浦本さんご自身も、サカナクションと他のバンドでは、制作への関わり方というのも大きく違ってきますか?

浦本:そうですね。他のバンドであれば、多くの場合プロデューサーさんがいるので、僕は1人のレコーディング・エンジニアとして制作に参加するという感覚です。“plenty”というインディーズ・バンドではプロデュースも含めてやっていますが、それでもサカナクションの制作現場は特別ですね。彼らは、本当に“バンド”で作品を作っているんです。プロデューサーはいなくて、メンバーとレコード会社のディレクター、マネージャー、それと僕で制作を進めていきます。だから僕は、彼らのレコーディングの現場では“進行役”と言えるかもしれません。

─ サカナクションのようなプロジェクトに関わって、それまでとは違うエンジニアとしての面白さを感じた部分はありますか?

浦本:チーム感というか、サカナクションに関わるみんなが、すごくつながっているんですよ。僕自身もレコーディングを担当するだけでなく、彼らのライブを観に行って、そこでPAさんや照明さんとも仲よくなりましたし、今度はそのライブDVDのミックスを僕がやったり。ずっと同じチームで作品を制作しながら、でも毎回新しい感覚で取り組める。これは正直に言って、かなり面白いです。そういった部分をコントロールするのが、一郎くんはとても上手なんだと思いますね。

─ 話題は変わりますが、今回、浦本さんには最大6チャンネル同時録音可能なプロ仕様のポータブル・レコーダーR-26を試していただきましたが、お使いになっての感想はいかがでしたか?

浦本:まず一番いいクオリティで録ってみようと思って、実際にレコーディング・スタジオで24bit/96kHz録音をしてみたんですが、「こんなに音がいいんだ」と驚きました。その時はピアノを録ったんですが、素晴らしいミュージシャンの方に演奏していただいたので、もうR-26の録音だけで十分に作品にできるんじゃないかという印象でした。サカナクションの江島(Dr)くんもこういった機材に興味を持っていて「これなら、ドラムのデモが一発で録れるんじゃないか」って話をしました。スネア・ドラムとバス・ドラムにそれぞれマイクを立てて、それをR-26に入力しながら内蔵マイクでキット全体を狙うというセッティングですね。それも十分に“アリ”だと思います。

─ 内蔵マイクは指向性と無指向性の2種類を搭載していますが、それぞれの違いについては、どのように感じましたか?

浦本:環境的に「その空間」を録りたいなら指向性(XYマイク)、楽器自体を近くで録りたいなら無指向性(OMNIマイク)を使うのがいいんじゃないかというのが、僕の印象です。指向性の話として、無指向性マイクのステレオ録音だと位相がいいので、音像が近く感じられるんです。一方で、指向性が強いマイクで広い空間をステレオで録ると、位相は悪くなるんですが、それによって広がり感が出やすいと僕は感じています。あと、ピアノを録った時は、無指向性の方がしっかりとしたロー感が録れましたね。

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Profile

浦本雅史

バーニッシュストーン・スタジオでエンジニアのキャリアをスタートさせ、その後、青葉台スタジオを経て、現在はフリーランスとして活躍中。これまでに、くるり、フジファブリック、GO!GO!7188、サクラメリーメンなどのレコーディングやミックスを手がける。近年はサカナクションのレコーディング/ミックスをすべて手がけ、最新作『DocumentaLy』は10万枚を超えるセールスを記録した。3月28日にリリースされるライブDVD『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy -LIVE at MAKUHARI MESSE-』のミックスも担当している。また、エンジニアリングに加えプロデュースも行ったplentyのアルバム『plenty』が2月15日に発売される。

Information

CD

サカナクション
『DocumentaLy』

初回限定盤A(CD+DVD)
VIZL-437 ¥3,500

plenty
『plenty』

(2012年2月15日発売)
XQFQ-1206 ¥2,500

DVD

サカナクション
『SAKANAQUARIUM 2011 DocumentaLy -LIVE at MAKUHARI MESSE-』

(2012年3月28日発売) 初回限定盤
¥4800(DVD)/¥5800(Blu-ray)

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